ホタテの重さを自動推定するAI、パック詰めの手戻りを「ゼロ」に:製造現場向けAI技術
ラックランドは2022年2月14日、ホタテの質量推定用AIソリューション「AIセレクタ」のパイロット版導入企業の募集を受付開始した。ホタテのパッキング作業を効率化するとともに、製品の品質向上にも貢献する。
ラックランドは2022年2月14日、ホタテ(貝柱)の質量推定用AI(人工知能)ソリューション「AIセレクタ」のパイロット版導入企業の募集を開始した。ホタテのパッキング作業を効率化するとともに、製品の品質向上にも貢献する。料金はサブスクリプション形式で月額約7万〜8万円(税別)。
ホタテのパッキング作業を効率化
AIセレクタはホタテのむき身加工工程である「むき身」「パッキング」「出荷準備」のうち、特にパッキング作業を効率化するソリューションである。カメラを搭載した専用筐体と、撮影した画像分析を行うAIシステムなどで構成されている。
ホタテのむき身は個体によって大きさも重量も異なるため、1パック当たりの重量をそろえるには、ホタテを触った感覚などからおおよその重さを判断し、正確かつ素早くパックに詰める技術が必要になる。作業経験を積んだベテランでなければ対応しづらいが、新人作業員の育成に時間がかかるなど技術承継上の課題もあり、労働生産性の向上が進んでいない状況だった。
AIセレクタはパックに詰めるべきホタテをAIが指示することで、新人作業員でも作業を素早く進められるようになる。まず、筐体に20個程度のホタテを並べて入れる。筐体内にはカメラがセットされており、撮影した画像からAIがホタテの質量をそれぞれ瞬時に推定する。そして、あらかじめ満杯になる手前までホタテを詰めたパックをはかりに乗せて計量すると、残りのスペースに入れるべきホタテをAIが瞬時に提案するという仕組みだ。詰めるべきホタテはディスプレイ上に色分けされて表示されるので、視覚的に分かりやすくなっている。
ラックランドのグループ企業であり、水産加工を手掛けるハイブリッドラボでAIセレクタの実証実験を行ったところ、従来102秒程度かかっていたパッキング工程の作業が、手戻りがほぼなくなったことで71秒に短縮できたという。作業時間の短縮に伴い、作業者がホタテに触る回数が減少する効果も確認された。ホタテの選び直しなどで以前は本来必要な接触回数よりも20%程度多く触っていたが、AIセレクタの導入によって余分な接触回数は0回になった。食品への接触回数を減らすことによる品質向上も期待できる。
ハイブリッドラボ 取締役社長の石橋剛氏は「ホタテのような生鮮食品の加工作業には『大掛かりな機械化は難しい』『ベテランの経験がないと厳しい』という課題があった。食品になるべく衝撃を与えず加工するにはどうしても手作業が必要だ。そのため作業の効率化を進めるには、作業員の判断を省力化する必要があった。AIセレクタを使えば、採用したばかりのアルバイトでもすぐにパック詰め作業に参加できるようになる」と導入の利点を語った。
また、ラックランド 代表取締役社長の望月圭一郎氏は「当社はこれまで、労働集約型産業としては建設業界向けのソリューションは提供してきたが、水産加工業向けのものはなかった。だが今回のソリューションの開発を通じて、独自の技術を持っているが技術の担い手の高齢化によって将来に不安を抱える業界は少なくないと感じた。今後もこうした業界共通の課題解決を図っていきたい」と意気込みを見せた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 総菜×ロボット、労働生産性が課題となる食品製造業の自動化には何が必要か
食品製造業が自動化を進めるためには何が必要か――。FAプロダクツは2021年9月30日、東京都内で研究開発に関するメディア向け勉強会を開催。その中で「食品製造の現場における自動化の必要性と事例紹介」をテーマに日本惣菜協会 AI・ロボット推進イノベーション担当フェローの荻野武氏が講演した。 - 需要予測の高度化で食品ロス低減、食品メーカーに必要なサプライチェーンDX
インフォアジャパンは2021年7月21日、食品/飲料業界を取り巻くさまざまな課題の解説と、それらを解決し得る同社製品を紹介する説明会を開催した。需要予測の高度化などサプライチェーンのDXが食品ロス問題解決を促す可能性がある。 - AI外観検査支援サービスを切り口に、日立が食品製造業のデジタル化を提案
日立製作所は、「FOOMA JAPAN 2019(国際食品工業展)」において、食品製造をはじめさまざまな分野に適用可能な「AI外観検査支援サービス」を展示。併せて、食品分野向けのデジタルソリューションも提案した。 - AIで原料を判定、食品業界全体にAI活用拡大を目指すキユーピーの挑戦
「第4回 スマート工場 EXPO〜IoT/AI/FAによる製造革新展〜」の特別講演にキユーピー 生産本部 生産技術部 未来技術推進担当 担当部長の荻野武氏が登壇。「Non AI食品製造業キユーピーにおけるAIによるイノベーション 〜協調領域で業界に貢献〜 」をテーマに、同社のAI(人工知能)技術を使った原料検査装置の開発や食品業界協調領域におけるAI活用力強化に向けての取り組みを紹介した。 - 食品を自在につかむロボットをどう実現するか、CPSによるシステム思考での挑戦
立命館大学は2021年10月12日、プレスセミナーを開催し、立命館大学 理工学部 教授の川村貞夫氏が研究責任者を務め、SIP戦略的イノベーション創造プログラム「フィジカル空間デジタルデータ処理基盤」にも選ばれている「CPS構築のためのセンサリッチ柔軟エンドエフェクタシステム開発と実用化」プロジェクトについて紹介した。