総菜×ロボット、労働生産性が課題となる食品製造業の自動化には何が必要か:産業用ロボット
食品製造業が自動化を進めるためには何が必要か――。FAプロダクツは2021年9月30日、東京都内で研究開発に関するメディア向け勉強会を開催。その中で「食品製造の現場における自動化の必要性と事例紹介」をテーマに日本惣菜協会 AI・ロボット推進イノベーション担当フェローの荻野武氏が講演した。
食品製造業が自動化を進めるためには何が必要か――。製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)から生産ラインの開発/実装までを包括的に支援するコンソーシアム「Team Cross FA(チームクロス エフエー)」の幹事企業であるFAプロダクツは、経済産業省が主導している「ロボットフレンドリーな環境の構築に向けた研究開発(食品製造分野)」を、関係各社と共同で行っている。
2021年9月30日には東京都内で研究開発に関するメディア向け勉強会を開催し、「食品製造の現場における自動化の必要性と事例紹介」をテーマに日本惣菜協会 AI・ロボット推進イノベーション担当フェローの荻野武氏が講演した。
ロボット導入には人手が必要
現在、多くの産業で自動化のために活用が広がっているのがロボットである。しかし、ロボットを導入するには、それぞれの企業がロボットメーカーやロボットSIerに個別にシステムを発注する必要がある。荻野氏は「現在の状況ではロボット導入に必要な人手を確保することがボトルネックとなり導入が進まない状況が生まれている。例えば、ユーザーが10のシステムを導入しようとした場合、1つのシステムを作るのに5人のロボットエンジニアが必要だとすると、全体では50人のエンジニアが1つのユーザー企業に対してかかりっきりになる。日本には、5万の食品メーカーがあり、これらの企業が同じように10のシステムを導入すると考えると、250万人のエンジニアが必要になる計算で、こうした人数はとてもではないが、確保できない」と問題点について語っている。
荻野氏はさらに「このやり方は『人口の多い国が勝つ』という結果につながる」と指摘する。「システムは個別に発注されるため、相互に使われることがなく、似て非なるものが大量に作られることになる。こうした無駄な開発が日本全体で行われている」と問題点を訴えた。
そして、この問題を解決するためには「ユーザーが仲間やチームとして課題を共有し、解決策を見つけ出し、業界内でシェアしていくことが必要だ。こういう仕組みができると、250万人ものロボットSIerは必要なくなる」と荻野氏は考えを述べている。これにより日本全体で固定費が下がり、国際競争力を高められ、人手不足の解消にもつながる。
総菜メーカーが機械化を進める上での課題
総菜メーカーが機械化を進める際に、大手の開発企業に発注すると費用は1台当たり約2000万円になる。これでは数多くの導入は難しい。そのため、総菜メーカーでもロボット導入を進められるように、ものづくり補助金を活用し、複数の総菜メーカーの共通の課題を抽出し、その課題に最も適したトップ企業を集めて、開発を進めることで1台500万円前後にコストを下げることを目標に新たな導入スキーム構築に取り組んでいる。
荻野氏は食品会社のキユーピーに勤務していた際に、こうした考えを基にAI(人工知能)による原料検査装置を開発した。原料検査はほとんどの食品メーカーは行っているが大半は目視検査に頼っている。検査装置を導入しようとしても性能の良い装置は欧州メーカーのもので、価格は数千万円と高額なため中小企業では導入は難しい。そこで、欧州メーカーの製品の10分の1の価格で、しかも高い検出精度を誇り、技術者不要で簡単操作を実現した製品を開発した。この製品を同業他社に提供したところ、食品・原料メーカー100社以上から引き合いがあったという。
全産業の中で最も労働生産性が低いといわれる食品製造業の中でも、特に総菜関連製造企業の機械化は遅れている。しかも、全食品製造業の労働者は130万人で、半分近くが総菜製造に従事している。食品製造業でも調味料製造などでは機械化が進んでいるが、総菜関連ではまだまだで、その製造工程は人手に頼っている。日本惣菜協会の2020年の調査でも現状の生産における課題に対して66.5%が「労働力の確保」を挙げている。また、労働力不足の改善策として今後検討する事項として7割以上が「機械化の推進」と答えた。
こうして重要視される機械化だが、遅々として進まないのが現実だ。その要因としては、ロボット導入に対し、個々の企業が設備やシステムを開発すると高コストになるということがある。さらに、盛り付け作業の自動化は技術レベルが高く、実現性が困難であることも課題としてある。また、現場に技術者の余裕がないために運用が難しく、導入・運用を鑑みた全体最適化が困難であることなども挙げられている。
ロボットフレンドリー施策を推進
これらに対して機械化推進のための「ロボットフレンドリー施策」(導入コストの低減につながるロボットを導入しやすくするロボットフレンドリーな環境の整備を目指す)として、業界共通課題の明確化とソリューションの業界共有化により低価格を実現し、商品の要求する仕様を緩和させ実現性を高める。「ソリューションの家電化」を進めて、操作のシンプル化を進める。さらにデジタルツインによる生産プロセスの最適化、量子コンピュータによるシフト計算、導入しやすい各種スキームの構築などで導入・運用を鑑みた全体最適化を図る。そして、総菜企業の共通課題に対して最高のシステムを提供すべく、業界共通課題を抽出して、トップ企業によるソリューションを構築し、同会員企業をはじめ、約3000社ある総菜業界全体への展開を目指す。
2021年9月30日には、日本惣菜協会が、経産省の予算事業である「令和3年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に採択された(同予算事業の執行管理団体は日本機械工業連合会)ことが発表された。今後、ロボフレ加速のため、総菜盛り付けロボット開発経験を持つア−ルティ(RT)に参画してもらい、RTの総菜盛り付け協働ロボット「Foodly」を総菜企業3社(ヒライ、藤本食品、イチビキ)に導入し、各種ロボフレな環境の検討を進める方針だ。さらに、このRTの協力の下、生産性を重視した盛り付けロボットシステムの開発をFAプロダクツと食品ロボットシステムで実績の高いコネクテッドロボティクスを中心に、Preferred Networks、エクサウィザーズの協力により進め、マックスバリュ東海の工場に導入する計画を立てている。
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