現場のカンコツをIoTデータで裏付け データドリブンな漁業に転換目指す:製造業IoT(1/2 ページ)
漁業は製造業と同様、熟練労働者の高齢化や次世代への技術伝承といった問題に直面している。これに対してIoTなどを通じてデータドリブンな漁業の実現を目指すのが、日本事務器の展開する「MarineManager +reC.」だ。
製造業の読者で「漁業」になじみがある人はどれくらいいるだろうか。当然、私たちは食事で魚を食べているのだから、広い意味では関わっているのは確かだが、業務で漁業そのものに接する機会がある人はそれほど多くないだろう。
ただ、実は製造業と漁業は互いに類似した課題に直面している業界同士といえる。熟練労働者の高齢化や次世代への技術伝承といった問題だ。漁業の場合、ベテランの漁業者は経験を基に天候や海水温から最適な漁の場所を決められるが、若手が判断するのは難しい。海洋環境保全の観点から、水産資源の計画的な管理が求められていることもあり、カンコツだけでなく、信頼性の高い情報に基づいて効率的な漁を行えるようにするかが課題となっている。
こうした現状に対して、IoT(モノのインターネット)などを通じてデータドリブンな漁業の実現を目指すのが、日本事務器の展開する「MarineManager +reC.(マリンマネージャー プラスレック)」だ。漁業向けのサービスではあるが、そこに詰め込まれた機能設計などは、製造業でも参考にできるところがある。
不安定な海上でのIoT通信を工夫
MarineManager +reC.は次世代の「スマート水産業」を構築することを目指して開発された、漁業関係者を対象とするサービスだ。海上に浮かぶゼニライトブイ製のブイから定期的に送信される情報や、船上で漁業者が入力した記録をクラウド上のデータウェアハウスに保管し、アプリケーションを通じて漁業関係者がスマートフォンなどで参照できるようにする。現在、北海道などでホタテや鮭を対象とする漁業で導入されているようだ。
収集するデータは多岐にわたる。ブイからは海水温や流速、流向の3種類をIoT通信で1時間に一回取得しており、これに塩分濃度などのデータを組み合わせて、Google Cloud上に保管する。海水温は5、10、20mの3層でそれぞれ測定する。通信基盤はソラコム、通信携帯回線網はNTTドコモのサービスをそれぞれ採用する形となっているようだ。
海上でのIoT通信は、陸地と比べて不安定なものになりがちだ。波にブイが飲まれると途端に通信ができなくなる。また、離島やリアス式海岸のような入り組んだ地形のそばでも、安定した通信は困難だ。日本事務器 事業戦略本部 バーチカルソリューション企画部 水産関連事業担当マーケッターの和泉雅博氏は「漁業者などに話を聞きながら、実際に現地に赴いて通信テストを繰り返し、最適な位置にブイを配置できるように取り組んだ」と語る。
もう1つの制約として、海上での運用となるためバッテリー消費をできるだけ抑えなければならないという事情がある。ブイは3種類のセンサーを搭載している分、電力消費量も大きくなりがちだ。ここにさらに消費量を多くしかねないリアルタイム通信の機能を乗せることは現実的ではない。検証の中では「実証実験では20分に1回でも問題ないことは確認している」とするが、十分な遊びを持たせて1時間に1回の通信頻度に設定した。なお、ブイの機器メンテナンスはゼニライトブイが担当している。
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