低環境負荷防食剤の開発にMIを活用、材料探索範囲が従来の1万倍に:マテリアルズインフォマティクス
栗田工業は、Fracta Leapらとマテリアルズインフォマティクスを活用した低環境負荷防食剤の開発を開始した。従来の人手による材料探索法の1万倍の範囲を高速で探索できる。
栗田工業は2024年2月7日、マテリアルズインフォマティクス(MI)を活用した低環境負荷防食剤の開発を開始したと発表した。
低環境負荷防食剤は、栗田工業と同社の海外子会社クリタ・ヨーロッパ、水処理関連のデジタル技術や製品を開発、販売するFracta Leapの3社で共同開発する。
開発においては、外部データベースに保存されている数百万レベルの分子情報から、MIの機械学習を駆使して有望な候補材料を絞り込むことにより、探索や分析が格段に高速化した。
従来の人手を使った方法では探索範囲が数百分子レベルだったが、MIを活用することで、その1万倍に相当する数百万分子規模の範囲を高速で探索できる。なお、半導体製造プロセスにおける材料溶解制御の分野で、MIの効果検証を先行したところ、人手を使った探索よりも優位の結果が得られたことが示された。
冷却水系の防食剤に使われていることが多いリンや亜鉛、窒素系化合物は、安全性に懸念があるため、オランダをはじめとした欧州各国で規制を強化する動きがある。従来品に代わる新しい防食剤を速やかに開発するには、その材料を効率的に探索することが急務となっている。
栗田工業とFracta Leapは共同で、水処理における革新的なデジタルソリューションの構築を目標として「メタ・アクアプロジェクト」を進めている。同プロジェクトでは、機械学習やシミュレーション技術などを活用して水処理の設計、生産や運転管理の高効率化、高度化を達成した。今回、材料開発分野でも機械学習を利用して、材料探索の効率化、高度化を図るべくMIの導入を決定した。
栗田工業は、迅速な開発スピードが求められる半導体産業をはじめ、水処理向けの材料開発分野にMIを幅広く活用する。これにより、クリタグループにおける基盤技術を強化し、節水、GHG(温室効果ガス)排出削減、資源循環に貢献するソリューションの創出を加速していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- カネカがAIシステムで樹脂プラントの乾燥設備を最適運転、年間100t増産
本稿ではカネカが独自開発したAIシステムで樹脂プラントの連続乾燥設備の最適な運転を実現し、年間100tの増産を達成した事例などを紹介する。 - 半年勉強するだけでもマテリアルズインフォマティクスは可能、TBMの挑戦
本連載ではメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを取り上げる。第3回は環境配慮素材「LIMEX」と再生素材「CirculeX」を展開するTBMの取り組みを紹介する。 - JSRや出光はマテリアルズインフォマティクスのプロ人材をどのように育成したのか
本連載ではマテリアルズインフォマティクスに関する最新の取り組みを取り上げる。第4回は、国内化学メーカー向けにマテリアルズインフォマティクスのコンサルティング実績を積み重ねてきたEnthoughtを紹介する。 - スーパーコンピュータを活用した新規塗材探索手法を開発、塗材開発を高速化
東京大学は、日本ペイント・インダストリアルコーティングスとの共同研究により、スーパーコンピュータを活用した新規塗材探索手法の開発に成功した。実用的な塗材開発の高速化に役立つことが期待される。 - 材料開発プラットフォームにAIによる物性予測機能を新たに搭載
アイデミーは、材料開発プラットフォーム「Lab Bank」にAIを使った物性予測機能を新たに搭載し、2024年1月中旬にリリースする。実験のトライアル回数を削減することで、研究現場の生産性向上やDX促進に寄与する。 - レゾナックが量子化学計算に比べて数千倍速く物性を予測可能なアプリを開発
レゾナックは、ディープラーニング技術を用いたAIと膨大な蓄積データを用いるケモインフォマティクスアプリを独自開発し、運用を開始した。