爆発するリチウムイオン電池を見抜く検査装置を開発した神戸大・木村教授に聞く:材料技術(3/3 ページ)
製造したリチウムイオン電池が爆発するかを見抜ける検査装置「電流経路可視化装置」と「蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置」を開発した木村建次郎氏に、両装置の開発背景や機能、導入実績、今後の展開などについて聞いた。
インラインタイプの特徴とは?
MONOist インラインタイプの特徴について教えてください。
木村氏 インラインタイプは、搭載する蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の数を増やして大型化すれば1日に数十万個以上のリチウムイオン電池も検査できる。さらに、世界最高品質の蓄電池の中に含まれる、潜在的な不良品も検出できることが分かっている。既に、インラインタイプで年間約1000個のリチウムイオン電池を分析していることに加え、これまで国内外で約100社と共同実験などを行ってきた。
周辺機器にはAI(人工知能)システムと2台のカメラを搭載したロボットを採用している。このロボットは、AIシステムと2台のカメラにより検査待ちのリチウムイオン電池を認識し、インラインタイプに運び、検査が終了したら専用の箱に運搬する。運搬作業で製造ラインと一体になった運送システムではなくロボットを導入しているのは、工場で停電などのハプニングが起きてロボットが動かなくても、これらの作業を人や別の機械で行えるようにするためだ。
MONOist 今後の展開について教えてください。
木村氏 インラインタイプを2023年に受注しており、同年度末に納入する予定だ。また、電流経路可視化装置や蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の展開を皮切りに、リチウムイオン電池をはじめとする電池の検査ルールの策定にも貢献していきたい。
MONOist 検査ルールの策定に取り組む背景について教えてください。
木村氏 リチウムイオン電池市場は日本より中国や韓国のほうが10倍以上大きく、インラインタイプは、CATLやBYD、LG Energy Solutionなど中国や韓国のリチウムイオン電池メーカーでどんどん採用されていく可能性が高い。
さらに、中国のリチウムイオン電池メーカーでは現場責任者の権限が大きく意思決定が速いため、インラインタイプの導入も進みやすいと見ている。加えて、中国の企業が、リチウムの鉱脈を買い占めているため、リチウムイオン電池を生産しやすい環境も中国にはある。
これらの後押しもあり、インラインタイプが中国や韓国のリチウムイオン電池メーカーで採用されていくと、検査能力が上がり市場に出回るリチウムイオン電池の性能が上がり安全性が高まることで、それらの企業の競争力がアップするだろう。つまり、中国と韓国のリチウムイオン電池の技術を上げるだけになってしまう。
そこで、インラインタイプを用いた日本のリチウムイオン電池検査技術を世界標準とするためのルール作りを行う。この検査技術に当てはまらないと販売できないようなルール作りを日本が中心となって実施したい。その際には、例えばインラインタイプや蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置などの検査を行うたびに1個のリチウムイオン電池につき日本政府に5円払うなどの規約を盛り込み、日本の利益に貢献できればと考えている。
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