爆発するリチウムイオン電池を見抜く検査装置を開発した神戸大・木村教授に聞く:材料技術(2/3 ページ)
製造したリチウムイオン電池が爆発するかを見抜ける検査装置「電流経路可視化装置」と「蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置」を開発した木村建次郎氏に、両装置の開発背景や機能、導入実績、今後の展開などについて聞いた。
蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の開発背景
MONOist 蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の開発背景について教えてください。
木村氏 IGSは創業後、田中浩一氏のノーベル賞受賞を記念した文部科学省のプロジェクトである「科学技術振興機構(JST)先端計測分析機器開発事業」に電流経路可視化装置が採択され、知名度が上がった。この影響もあり、京都大学ベンチャーファンドであるみやこキャピタルからの出資を得て、電流経路可視化装置の改良や商品化を加速した。
その後、文科省と経産省のプロジェクトに採択されるとともに、凸版印刷、旭化成、第一生命、CYBERDYNE、SBIホールディングス、神奈川サイエンスパークなど、世界有数の事業会社との資本提携および業務提携が成立した。
2018年頃には電流経路可視化装置を改良し蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の開発に成功している。なお、完成した蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置は現物のそれ以外に同じモノがない1品モノで、理化学計測機器に区分される。
2023年4月には、全数検査に対応するインライン蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置(以下、インラインタイプ)の試作機が完成した。
MONOist 蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の機能について教えてください。
蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置は、測定した磁場の値を基に、充電している電池の各部位における電気の流れやすさを色で可視化する。これにより、不良品の電池を見つけられるだけでなく、複数回に渡って充電している電池を検査すると、複数回の充電により電池がどのように壊れていくかも調べられる。
MONOist 蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置の導入実績について教えてください。
木村氏 国内大手電気メーカーのT社とある電子部品メーカーに導入実績がある。T社に販売した蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置は最高スペックの量子効果磁気センサーを備えた製品でリチウムイオン電池1個当たり数十分で検査が行える他、nm〜cmの磁力線の密度の空間分布を可視化できる。ある電子部品メーカーに販売した装置は量子磁気センサーを576個搭載した製品で、リチウムイオン電池1個当たり数秒で検査が行える。価格はT社に販売した同装置が7500万円で、ある電子部品メーカーに販売したモノは5000万円だ。
MONOist インラインタイプの開発ではどのような苦労がありましたか。
木村氏 インラインタイプの開発はとても大変だった。そのため、インラインタイプの完成には蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置を作り上げてから5年もかかった。インラインタイプを開発するためには性能が同じ複数の蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置を製造する必要があったがそれが難しかった。
どうして性能が同じ複数の装置を製造するのが難しいかというと、装置に搭載する量子磁気センサーを同じ性能で開発するのが困難だからだ。鉄やニッケル、ネオジムなどの素材から成る量子磁気センサーは性能を均一化するのが難しい。
5年をかけて製造プロセスを最適化することでなんとか性能が同じ複数の量子磁気センサーを作れるようになった。これにより同じ性能を持つ複数の蓄電池非破壊電流密度分布映像化装置で構成されるインラインタイプを開発できるようになっている。
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