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生分解性プラが深海でも分解されることを実証、プラ海洋汚染問題の解決に光明研究開発の最前線

東京大学、海洋研究開発機構、群馬大学、製品評価技術基盤機構、産業技術総合研究所、日本バイオプラスチック協会は、生分解性プラスチックが深海でも分解されることを実証した。

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 東京大学、海洋研究開発機構、群馬大学、製品評価技術基盤機構、産業技術総合研究所、日本バイオプラスチック協会は2024年1月29日、ポリ乳酸を除くさまざまな生分解性プラスチックが深海でも分解されることを実証したと発表した。

 これらの生分解性プラスチックが、神奈川県の三崎沖(水深757m)、静岡県の初島沖(水深855m)、伊豆小笠原島弧海底火山付近の明神海丘(水深1292m)、黒潮続流域の深海平原(水深5503m)、日本最東端の南鳥島沖(水深5552m)の各深海で、微生物により分解されることを確認している。なお、生分解性プラスチックが深海でも分解されることを実証したのは今回が初だという。

汎用プラスチックとポリ乳酸が全く分解されないことも確認

 今回の研究では、有人潜水調査船「しんかい6500」とフリーフォール型深海探査機「江戸っ子1号」を用いて、生分解性プラスチックと汎用プラスチックを深海に3カ月〜14カ月間設置し、それらサンプルの重量や形状の変化、表面に付着した微生物を解析した。

有人潜水調査船「しんかい6500」(左)により生分解性プラスチックを深海底に設置している様子(右)
有人潜水調査船「しんかい6500」(左)により生分解性プラスチックを深海底に設置している様子(右)[クリックで拡大] 出所:製品評価技術基盤機構

 生分解性プラスチックとしては、微生物産生ポリエステル(PHA)やポリ乳酸をはじめとする生分解性ポリエステルと、セルロースアセテートなどの多糖類エステル誘導体を検討。同時に、浮遊プラスチックごみが多い東京湾に面した海洋研究開発機構の岸壁(神奈川県横須賀市、水深約5m)にも同様のサンプルを設置し、生分解速度の比較も行った。

 深海に設置したサンプルを3カ月〜14カ月後に引き上げ、フィルムや射出成形体の重量と厚みの変化、表面に付着した分解微生物を解析した。その結果、汎用プラスチックとポリ乳酸は全く分解されないのに対し、ポリ乳酸を除く他の生分解性ポリエステルと多糖類エステル誘導体はいずれの深海底でも分解されることが分かった。

深海における生分解性プラスチックの分解微生物による生分解
深海における生分解性プラスチックの分解微生物による生分解、有人潜水調査船「しんかい6500」により深海底に設置して3カ月後の生分解性プラスチックサンプルには、マリンスノーが堆積している様子が観察された。サンプル表面に付着した無数の微生物の作用により、サンプル表面にクレーターが形成するように生分解が進行することが明らかになった。[クリックで拡大] 出所:製品評価技術基盤機構

 深海と岸壁における生分解速度(μg/cm2/day)を比較すると、岸壁の分解速度に対して、水深1000mの深海では5分の1〜10分の1、水深5000mの深海では約20分の1だった。この生分解速度の低下は、水深が深くなることによる水圧や水温などの環境変化に加え、微生物の存在量や多様性が減少するために引き起こされると考えられる。

 今回実験に用いた生分解性プラスチックの1つである微生物産生ポリエステルでレジ袋(一般的な厚さは15μm)を作製したとして、初島沖(水深855m)での分解速度を用いて深海における分解期間を計算すると、約3週間〜2カ月間で分解されると予想した。

深海における生分解速度と生分解性プラスチックで作製したレジ袋の深海分解推定期間
深海における生分解速度と生分解性プラスチックで作製したレジ袋の深海分解推定期間[クリックで拡大] 出所:製品評価技術基盤機構

 走査型電子顕微鏡を用いて深海に設置したプラスチック表面の様子を観察したところ、汎用プラスチックとポリ乳酸のサンプル表面にはほとんど微生物が付着していなかったのに対し、生分解性プラスチック表面には多数の微生物がびっしりと付着する様子が観察できた。付着した微生物の菌叢(きんそう)解析の結果、深海設置から数カ月は好気的な微生物が付着し、時間の経過とともに嫌気的な微生物へと菌叢が変化することも判明した。

 これはサンプル表面に時間の経過とともにマリンスノーが堆積し、好気的条件から嫌気的条件へ変化したことが原因と考えられる。サンプル直下の海底堆積物中に生息する微生物の菌叢解析を行ったところ、嫌気的条件になった状態のサンプル表面の菌叢とほとんど同じだった。

 サンプル表面に付着した微生物の菌叢解析およびメタゲノム解析を行い、生分解性プラスチックを分解する微生物産生ポリエステル(PHA)分解酵素や、ポリエステラーゼ、クチナーゼの遺伝子の塩基配列を有する新たな微生物を6種類発見した。発見した微生物は世界中の海底堆積物に存在することが分かり、今回分解が実証された生分解性プラスチックは日本近海のみならず、世界中の海域で生分解されると考えられる。

生分解性プラスチック表面と海底堆積物に生息する微生物の菌叢解析や新たに発見した分解微生物の堆積物中の全球分布
生分解性プラスチック表面と海底堆積物に生息する微生物の菌叢解析や新たに発見した分解微生物の堆積物中の全球分布[クリックで拡大] 出所:製品評価技術基盤機構

 生分解性プラスチック表面と海底堆積物に生息する微生物の菌叢解析や新たに発見した分解微生物の堆積物中の全球分布を見ると、初島沖の深海底に4カ月設置したフィルム表面には好気的な微生物(青や緑色)のみ存在したが、14カ月後には嫌気的な微生物(ピンク色)が支配的になっていくことが分かった。14カ月後のフィルム表面の微生物菌叢は海底堆積物中の菌叢とほぼ同じだった。新たに発見した微生物産生ポリエステル(PHA)分解菌が世界中の海底堆積物中に存在することも判明し、PHAは世界中の海で生分解されると考えられる。

 また、今回の研究により、海洋プラスチックごみが最終的に行き着くと考えられている深海底でも、生分解性プラスチックは微生物により分解されることが証明された。

 なお、プラスチック製品は可能な限り回収して、リサイクルしなければならない。しかし、全てのプラスチックを回収することは不可能であり、環境中に流出するものも多々ある。従って、海洋流出が避けられない製品などには、生分解性プラスチックを適切に使用することが必要不可欠で、生分解性プラスチックは、将来の海洋プラスチック汚染の抑制に貢献する優れた素材だという。

 今後は、使用中は優れた物性を持続的に発揮し、使用後に、仮に海洋に流出したら分解が始まるとともに、可能な限り速やかに分解する海洋分解開始機能を有する高性能な海洋生分解性プラスチックの開発が期待される。

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