中興化成工業のPTFE製ダイアフラムが探査機「SLIM」に搭載され月へ:材料技術
中興化成工業は、製造するふっ素樹脂(PTFE)製のダイアフラムが同月20日(日本時間)に月面着陸した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「SLIM」に搭載されていると発表した。
中興化成工業は2024年1月26日、製造するふっ素樹脂(PTFE)製のダイアフラムが同月20日(日本時間)に月面着陸した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機「SLIM」に搭載されていると発表した。
ダイヤフラムとは、ポンプの機械部分と送る液体を隔てる弾性の膜になるモノで、一般的には金属やゴム製だが、中興化成工業が製造したダイヤフラムはふっ素樹脂100%で約1mm以下の薄肉の加工品となる。
SLIMでの採用部分
同社のダイヤフラムはSLIMの主構造である燃料/酸化剤を貯蔵するタンクの中の酸化剤を貯蔵する部分に使用されている。
SLIMは、月周回軌道に投入され軌道調整時や月面着陸時に逆噴射して燃焼させるが、噴射させるためにはダイヤフラムをへこませる動作が必要になる。
従来はチタン製のダイヤフラムが利用されていたが、金属だとへこみの動きが硬く重たいという課題があった。そこで、柔軟性と軽量性がある樹脂製という条件に加え、酸化剤などの薬液が触れても劣化しにくい耐薬品性の特徴を持つPTFEが素材に選定された。
PTFEは、汎用樹脂とは異なり、耐薬品性や耐熱性、耐候性、滑り性など、さまざまな特性を併せ持つ高機能プラスチックだ。なお、同社が製造した他のPTFE製品は滑り性の特徴が評価され、JAXAのH2ロケットやH3ロケットのエンジン摺動部材に採用されている。
ふっ素樹脂製ダイヤフラムの開発経緯
中興化成工業は2014年に、JAXAからSLIMで使用するPTFE製ダイヤフラムの開発に関して相談を受け、開発をスタートした。
開発の過程で課題となったのは「ふっ素樹脂を薄く加工する難しさ」だった。ダイヤフラムの軽量化は樹脂の薄肉化(厚さを薄くする)が求められる。しかし、ふっ素樹脂は変形しやすいため、高精度の切削加工が難しい。さらに、薄さが変わることでダイヤフラムの動きにも影響が出るため、要求される動きや加工精度を具現化するのに苦労した。
しかし、これまで培った加工技術を応用し、加工時の固定方法を工夫することで、約1mm以下の薄肉化に成功。また、ダイヤフラムを取り付けるタンク本体を開発する三菱重工業の開発拠点が同じ長崎県内にあるため迅速な試験、試作を繰り返すことができ、完成に至った。
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