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2023年はispaceの月面への挑戦に注目、日本初の月面走行も実現するかMONOist 2023年展望(1/3 ページ)

2023年もさまざまな話題がある宇宙開発。今回は、2022年に引き続き、「月面探査」「新型ロケット」「深宇宙探査」の3つをテーマに動向を見ていきたい。

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 こういった展望記事というのは、通常であれば年頭にお届けすべきものなのだが、もろもろあって書くのが遅くなってしまった。さて、2023年の宇宙開発展望として取り上げるのは、「月面探査」「新型ロケット」「深宇宙探査」という3つのテーマである。特に月面探査はいま最も熱いトピックなので、注目したいと思う。

まずは2022年の振り返りを

 筆者は宇宙分野の展望記事を毎年執筆しているのだけれども、実は今回ほど悩んだことはなかった。というのも、前年に紹介したトピックのほとんどが延期になってしまい、普通に書くとほぼ同じ内容になってしまうからだ。宇宙開発に延期は付きものとはいえ、まさかここまで重なってしまうとは思わなかった。

 あらためて前回の展望記事を確認してみると、予定通りだったのは、ispace月面ランダーの打ち上げ、NASA(米航空宇宙局)の巨大ロケット「SLS」の初打ち上げ、NASAの探査機「DART」による小惑星衝突実験、のみ。ただ、SLSは遅れまくった結果なので褒められたものではないし、DARTの予定は軌道で決まっていて遅れようがなかった。

 しかし、前回紹介したトピックを全て外して書くのもなあ……ということで、迷った結果、前回と同じ3つのテーマになってしまったというわけである。ただ、それぞれ最新情報にアップデートしているので、「前回と同じじゃないか」とか突っ込まず、ぜひご覧いただければ幸いだ。

民間のランダー/ローバーが続々と月面へ

 2023年も引き続き、月面探査が盛り上がりそうだ。まず注目したいのは、ispaceの「HAKUTO-R」ミッション1である。同社が開発したランダーは、2022年末、打ち上げに成功。2023年1月20日には最も地球から離れた約140万kmの地点を通過し、これまで、順調に月への航海を続けている。

ispaceランダーに搭載されたCanadensys Aerospaceのカメラが撮影した地球
ispaceランダーに搭載されたCanadensys Aerospaceのカメラが撮影した地球。よく見ると右下にはロケットも写っている[クリックで拡大] 出所:Canadensys Aerospace

 ispaceはGoogle Lunar XPRIZEへの参加以降、宇宙開発の経験自体は長いものの、実際に宇宙に到達した機体はこれが初めて。初物、しかもいきなりこのサイズのランダーということで、かなり難しいチャレンジだったと思うが、推進系も含め機体は正常に動作しており、2カ月以上が経過したというのは、最高のスタートだったといえる。

ispaceミッション1ランダーの実物大モックアップ
ispaceミッション1ランダーの実物大モックアップ[クリックで拡大]

 残る難関は2つ。1つは月周回軌道への投入で、これは3月下旬になる予定。そしてもう1つは、もちろん月面への着陸だ。エンジンを長時間噴射し、その間、姿勢も正確に制御しなければならない。初の民間月面着陸に挑んだイスラエルのSpaceILはこの降下フェーズで失敗しており、最後まで全く油断はできない。

 もし成功すれば、これが日本初の月面着陸となる。2023年はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の小型月着陸実証機「SLIM」も打ち上げられる予定だが、国より先に民間が月面着陸を成功させるというのも、月面開発の新しい時代を象徴しているようで面白い。ispaceの月面着陸は、4月末にも実施される見込みだ。

 この月面着陸は、日本初であると同時に、世界の民間初にもなるだろう。競合する可能性としては、米Astroboticの「Peregrine」が残っていたのだが、この記事を書いている前日に打ち上げ予定をアップデートし、第1四半期から5月4日に延期され、ispaceが予定通り4月末に着陸できれば、先行するのは確実となった。

※)ispace「HAKUTO-R」ミッション1

※)JAXA 小型月着陸実証機「SLIM」

 民間では、Astroboticの他にも、米Intuitive Machinesのランダー「Nova-C」が6月後半の打ち上げを予定している。今年こそ、本当に今年こそ、民間初の月面着陸が達成できる、はずだ(毎年言っている気もするのだが……)。

※)Astrobotic「Peregrine」

※)Intuitive Machines「Nova-C」

 そして日本初の月面着陸が成功すれば、日本初の月面走行も実現しそうだ。ispaceのランダーには、JAXAとタカラトミーなどが開発した超小型ローバー「SORA-Q」が搭載されている。直径わずか8cmの球形で輸送され、月面で2輪型ローバーに変形するというユニークなもので、地表から送られてくる画像が非常に楽しみである。

JAXA/タカラトミーなどが開発した超小型ローバー「SORA-Q」
JAXA/タカラトミーなどが開発した超小型ローバー「SORA-Q」[クリックで拡大]

※)タカラトミー「SORA-Q」

 また日本の超小型ローバーとしては、ダイモンの「YAOKI」にも注目したい。YAOKIはAstroboticのランダーに搭載されることが決まっており、打ち上げを待ち続けているのだが、先日、Intuitive Machinesの2回目のミッションにも搭載されることが発表された。2023年後半の打ち上げ予定とのことで、YAOKIの月面走行もいよいよ現実になりそうだ。

Intuitive Machinesの「Nova-C」ランダーとダイモンの「YAOKI」
Intuitive Machinesの「Nova-C」ランダーとダイモンの「YAOKI」[クリックで拡大] 出所:Intuitive Machines

※)ダイモン「YAOKI」

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