“超高速”でアイデアを具体化 DNPが「生成AIラボ」で目指す共創活動:製造業×生成AI インタビュー(3/3 ページ)
生成AIに関心を示し、自社サービスや業務への導入を検討する製造業は多い。だが、生成AIで何かできるのか、どういったサービスを作れるのかをイメージし、具体化していく仕組みが社内にあるだろうか。そのための仕掛けとして、東京都内に生成AIの共創施設をオープンしたDNPの和田剛氏と大竹宏之氏に話を聞いた。
アイデアは出すだけでなく、しっかり具体化する
DNPでは2023年5月にマイクロソフトのクラウドサービス「Azure OpenAI Service」を通じて、全社約3万人がChatGPTを利用できるようにした。DNP 研究開発本部 ICT統括室室長の大竹宏之氏は「利用開始時に比べると、現在の利用率は一定水準に落ち着いたが、システム開発部門やR&D(研究開発)部門の他、バックオフィス部門でよく使われている」と話す。ソースコードの開発や資料調査、英文翻訳、文章要約などの用途が主だという。
これらの利用実績を踏まえて、より深く業務にChatGPTを組み込むためのPoCも進めている。特許出願に関わる業務を効率化するというアイデアもある。特許のアイデアに関わるファイルを読み込み、技術概要の要約や特徴的な用語の自動抽出、先行特許の調査時に必要となる検索式の作成などを自動で行うといったものだ。
加えて、2023年7月からはChatGPTを利用した業務のアイデア出しを社内でスタートさせたという。当初、ほとんどのアイデアはICT事業部から出てくると想定していたが、ふたを開けて見ると同事業部からの提出は半分以下で、製造部門の関係者などさまざまな社員が多様なアイデアを出すという結果になったようだ。
そこで、3〜4時間程度のハッカソン形式で生成AI活用のアイデアを形にするイベントを開催した。アイデアを具体化する仕掛けとしては良いと思われたが、実際には「数時間しか確保できないので、アイデアが少し形になって動くくらいの段階で終わった」(和田氏)という。この経験で痛感したのが、多様なアイデアを出すだけでなく、効果的に具体化していく仕組みの重要性だ。DNP生成AIラボ・東京ではこの点に気を遣った運営方針を掲げている。
プロセス代替ではなく新たな業務設計を
生成AI活用には学習していない不正確な情報を回答する「ハルシネーション(幻覚)」のようなリスクもある。このため生成AIを活用した場合は、人の目で確認するプロセスをどこかで設けなくてはならない。和田氏は、この新しいプロセスが業務を余計に煩雑にするのではないかとした上で、「プロセスの代替ではなく、全く新しい業務設計が必要になる可能性もあるのではないか」と話す。
一方で、これまで特定の人材に頼らざるを得なかった業務を、生成AIの活用で他の人材でも行えるようにするといった効果は期待できる。製造業でも、テキストだけでなく画像生成AIなども活用することで、熟練技術者の業務を非熟練者でも担えるようにする体制づくりや、人員の最適化につなげられる仕組みづくりに生成AIが使われる可能性がある。
そのためにDNPでは業務効率化と並行して、事業で新しい提供価値を生むための活用方法も模索している。「AIなどの技術を活用して、熟練者の暗黙知を構造化、形式知化することで、人手不足や人口減少など製造業や社会が抱える問題にアプローチしていけるようになるだろう。内と外の両輪で、生成AIの展開を後押ししたい」(大竹氏)。
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