福島原発のALPS処理水放出の影響を調査、「影響ある」企業は2.9%:製造マネジメントニュース
東京商工リサーチは、東京電力が2023年8月に福島第一原子力発電所のALPS処理水を海に放出したことで、中国など一部の国や地域が日本の水産物の輸入規制を強化した影響に関する調査結果を発表した。
東京商工リサーチ(TSR)は2023年12月15日、東京電力が2023年8月に福島第一原子力発電所のALPS処理水(以下、処理水)を海に放出したことで、中国など一部の国や地域が日本の水産物の輸入規制を強化した影響に関する調査結果を発表した。
今回の調査では、同月1〜11日にインターネットによるアンケート調査を対象企業に行い、有効回答を行った5022社のアンケートを集計/分析した。なお、資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業などを含む)を中小企業と定義している。
中小企業は輸出先の変更が難しい状況
調査結果によれば、「福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出は、貴社の事業にマイナスの影響はあるか」と択一回答の条件で対象企業に質問したところ、処理水の海洋放出で、風評被害など事業にマイナスの影響が「ある」と答えた企業は全体のは2.9%だった。一方、影響が「ない」は97.0%となった。
影響が「ある」と答えた企業は、全体では限定的だが、業種別(母数10以上)では清酒製造業などを含む「飲料・たばこ・飼料製造業」が全体の17.2%、生鮮魚介類卸売業など「飲食料品卸売業」は14.9%、水産練製品製造業など「食料品製造業」は13.9%を中心に飲食料品関連業種で影響が大きく、業種によって大きな差が出た。規模別では、影響が「ある」と回答したのは大企業が4.5%で、中小企業が2.7%と、大企業が1.8ポイント高かった。
影響が「ある」と答えた企業に、どのような影響かと複数回答可能の条件で質問したところ、「禁輸措置で販売減」が52.3%で最も高かった。次いで、「中国など一部の国や地域の企業との商談が停滞した」が27.6%と、輸出の影響が大きかった。ただ、国内でも「風評により日本国内向け販売が減少した」が26.1%と影響が出ている。
加えて、影響が「ある」と答えた企業に、マイナスの影響にどのように対応するかと複数回答可能の条件で聞いたところ、マイナスの影響に対する対応策は、「国内販売を強化する」が60.1%で最も高かった。次いで、「中国など一部の国や地域以外の海外販売を強化する」が34.7%となった。ただ、これは大企業が50.0%に対し、中小企業は31.2%と20ポイント近く差があり、中小企業は輸出先の変更が難しいとみられる。さらに、「当該事業・扱い品を縮小する」という回答も15.2%あった。
影響が「ある」と回答した企業は、鹿児島県(7.1%)や高知県(6.6%)、福島県(6.5%)、北海道(6.5%)、宮崎県(6.2%)、岩手県(5.6%)など、国内各地の水産物関連が中核産業の地域に広がっている。
こういった状況を踏まえて、政府は2023年9月、「『水産業を守る』政策パッケージ(総額1007億円)」を創設した他、風評被害が生じた事業者への東京電力による賠償受付も同年10月に始まり、支援は拡充されている。
しかし、マイナスの影響を受けた企業の対応策は、「国内外の販売強化」など具体策を欠く回答が多く、物価高で個人消費が鈍化する厳しい経営環境のなかで、競合や新規開拓などの負担が増している。
コロナ禍やコスト高などが重なり、漁業や水産物の加工販売会社の倒産がジワリと増えてきた。2023年1〜11月の倒産(負債1000万円以上)は109件(前年同期95件、前年同期比14.7%増)で、2020年同期(103件)以来、3年ぶりに100件を上回った。
コロナ関連支援で過剰債務の解消が遅れた企業も多い。また、処理水放出で一部の国や地域の輸入規制の強化も続いており、政府や地元自治体は水産業を中心に、影響を受ける産業への支援継続が求められる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 脱炭素とマイクロプラスチックに続く第3の環境課題「窒素廃棄物」の厳しい現状
本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)とその解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、窒素管理の議論が起こりつつある背景についてご説明します。 - 窒素廃棄物排出を巡る取り組みと軋轢、「窒素管理先進国」オランダの課題とは
本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、特に農業分野に絞り、窒素管理を巡る取り組みとそれが原因で生じている軋轢をご紹介します。 - 日本の窒素管理の現状、1年に下水として流れ込む水の中に48.4万tの窒素
本連載では、カーボンニュートラル、マイクロプラスチックに続く環境課題として注目を集めつつある窒素廃棄物放出の管理(窒素管理)、その解決を目指す窒素循環技術の開発について紹介します。今回は、水における窒素排出の現状とその課題について採り上げます。 - 「あの現場で動けるロボットはQuinceしかない」〜原発ロボットを開発する千葉工大・小柳副所長(前編)
震災から1年――。今なお予断を許さない東京電力・福島第一原子力発電所の事故。この過酷な現場に投入されたのが、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター(fuRo)が開発したレスキューロボット「原発対応版Quince(クインス)」だ。本稿では、開発責任者でfuRo副所長を務める小柳栄次氏に、これまでの開発について、そして今後のレスキューロボットについて話を聞いた。 - 「日本はレスキューロボットを開発しても配備される状況にない!!」〜東北大・田所教授が福島原発での活動を報告
IEEE(米国電気電子学会)は「日本のロボット利用に関する現状と課題 〜福島第一原発における災害用ロボット活用事例から読み解く〜」と題したセミナーを開催。国産ロボット「Quince(クインス)」の福島第一原発における活動状況について、その詳細が語られた。そして、なぜ、国産ロボットが真っ先に投入されなかったのか、その理由が明らかに!? - オールジャパンで挑む災害対策ロボット開発、実用化への道は?
東日本大震災および東京電力・福島第一原子力発電所の事故発生当初、われわれに突き付けられたのは「日本の災害対策ロボットは実用レベルに達していない」という現実だった。あれから2年――。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」の下、開発を進めてきた最新鋭の国産災害対策ロボット技術がプロジェクト完了を受けて一斉公開された。技術・運用面での課題はクリアできているのか? そして、実用への道は開けるのか?