「日本はレスキューロボットを開発しても配備される状況にない!!」〜東北大・田所教授が福島原発での活動を報告:再検証「ロボット大国・日本」(6)(1/2 ページ)
IEEE(米国電気電子学会)は「日本のロボット利用に関する現状と課題 〜福島第一原発における災害用ロボット活用事例から読み解く〜」と題したセミナーを開催。国産ロボット「Quince(クインス)」の福島第一原発における活動状況について、その詳細が語られた。そして、なぜ、国産ロボットが真っ先に投入されなかったのか、その理由が明らかに!?
IEEE(米国電気電子学会)は2011年8月4日、「日本のロボット利用に関する現状と課題 〜福島第一原発における災害用ロボット活用事例から読み解く〜」と題したセミナーを開催。東北大学大学院 情報科学研究科の田所諭教授より、国産ロボット「Quince(クインス)」の活動状況について報告があったので、本連載で詳しくお伝えしたい。
米国のロボットが先に登場した理由
日本における未曾有の原子力災害となった東京電力・福島第一原子力発電所の事故。これを受け、最近は「自然エネルギー」や「脱・原発」などの話題が盛んになっているが、それらへの評価はさておき、まず今やらなければならないのは事故を起こしてしまった原子炉の安定化、そしてこれ以上の被害の拡散防止である。
しかし、そういった作業の障害になっているのが、現場での高い放射線量。放射線は人体に有害であるために、場所によっては人間が立ち入ることができないし、そうでなくても作業時間は大幅に制限される。こういった危険な環境で有効なのがロボットなわけで、今回の事故でも作業員の被ばくを少なくする手段として、当初より期待されていた。
本連載のテーマでもあるが、日本は「ロボット大国」である。原発の事故でも活躍できるロボットがあるだろうと多くの人は思っただろうが、実際に伝わってきたのは、米iRobot社の「PackBot(パックボット)」が投入されたというニュースだった。なぜ日本のロボットではないのか。本来、「どの国のロボットであろうがベストなものを使う」という状況であり、競争よりも協力が重要なのは事実であるが、感情としてガッカリした人は多かっただろう。
ところが田所教授によれば、「国産ロボットが出てきたら逆におかしい」のだという。なぜならば、「日本には原発の事故に対応する専門組織がない。自衛隊も警察も消防も専門機関ではないし、しかも原発用のロボットも存在しない。これで出動できるわけがない」(田所教授)からだ。
意外に思うかもしれないが、日本には原発事故を想定して配備されているロボットは1台もない。それどころか、ロボット研究者からは「原発事故対応を目的に入れると国から予算が出なくなってしまう」という話も出ているほどだ。その真偽のほどは確認しようもないが、「原発事故用のロボットを開発する」=「原発では事故が起きる可能性がある」と受け取られるのを嫌ったのではないかということは容易に想像がつく。事実、東海村JCO臨界事故の後にプロジェクトが立ち上がったことがあったが、わずか1年で終了。開発されたロボットは維持もされず、ほとんど破棄されてしまった。
今回投入されたQuinceは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発された最新のレスキューロボットであるが、本来想定するのは地下やビル内など閉鎖空間における化学テロなどで、原発事故は目的になっていない。そのため、放射線対策は全く施されていないし、放射線を計測するような装備も持っていなかったが、これを千葉工業大学 未来ロボット技術研究センターの小柳栄次副所長が中心となって改造、2011年6月20日に福島第一原発に向け出発していた。
Quinceに与えられたミッション
Quinceの最大の特徴は、高い運動性能にある。本体のほぼ全面がクローラになっている他、前後には自由に動く4本のサブクローラも取り付けられており、階段の昇降やガレキ上の走行も可能となっている。
もう1つ重要な点は、これが国内で開発されているということだ。変化するニーズに柔軟に対応できるということで、実際、Quinceにも本来の車体をベースに、さまざまな追加装備が搭載された。
千葉工業大学、東北大学、国際レスキューシステム研究機構(IRS)は震災後、独自に原発対応のための改造を進めていたが、東電側から具体的なミッションの依頼がきたのは2011年5月20日ごろだという。内容は、原子炉建屋の地下に行って、そこにたまっている放射能汚染水を調べるというもの。具体的には、貯水量を推定するための水位計を設置すること、濃度を調査するためにサンプリング(採取)を実施すること――といった2つの作業が求められた。
まず考える必要があったのは、放射線対策である。放射線については、前述のようにもともと対策はされていないのだが、実際に放射線を当てて調査したところ、無対策のままでも100Sv程度までは動くだろうということが明らかになった。これは建屋内の線量が30mSv/hくらいでも、3000時間以上は使えるということである(人間なら8時間くらいで上限に達してしまう)。十分実用的だと判断し、特に放射線対策はしないまま投入することが決まった。
次の検討事項は通信方法である。Quinceは搭載カメラからの映像を見ながら遠隔操縦することが可能だが、原子炉建屋内はコンクリートで無線での制御が難しいために、有線化した。有線コントロールになるとケーブルがガレキに絡まり、動けなくなる恐れもあるのだが、ケーブル長は500mほどあり、移動範囲としては取りあえず十分だ。Quince本体は建屋まで人手で運ぶ必要があるが、操縦は別のビルから行うことができる。
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