積水化学が情報科学×化学分析で挑むMI、AIで13種類の物性を同時に予測:マテリアルズインフォマティクス(2/2 ページ)
本稿では「ITmedia Virtual EXPO 2023秋」で、積水化学工業 R&Dセンター 情報科学推進センター長で京都工芸繊維大学 特任教授の日下康成氏が「社会変化の中でのマテリアルズインフォマティクス(MI)の導入と活用」をテーマに行った講演の内容を紹介する。
4つの課題に対応するためマテリアルズインフォマティクスを導入
積水化学工業では主に、製品ライフサイクルの短命化、素材への要求の多様化、研究開発の短期化の要望、資源制約の激化の4点に対応するためにマテリアルズインフォマティクスを導入した。「当社が展開する事業の半分以上が素材に関するビジネスであり、素材開発そのもののイノベーションが求められていた。従来の手法だけでは勝ち抜けず、素材産業界における生き残りをかけて、強みである素材開発力およびデータを利用した開発であるマテリアルズインフォマティクスの推進が必須ということで取り組みを開始した」(日下氏)。
具体的には、2017年からマテリアルズインフォマティクスの技術の検討や調査を開始。2020年10月に現在の情報科学推進センターを発足させ、カンパニーやコーポレートの技術チームを融合させる形で組織を拡大した。特徴は計算科学(コンピュータシミュレーション)、マテリアルズインフォマティクス、画像解析、情報活用を後押しするデータベースなどの技術と、化学分析(材料の特徴を評価し数値化する技術)を掛け合わせて新材料/素材の新プロセスなどの開発に着手した点だ。
マテリアルズインフォマティクスを導入する上では人材、技術、環境などの面で、それぞれ課題があった。このうちデータサイエンティストの獲得という問題は社内公募と独自の人材育成手法の開発で解決した。技術面に関しては、外部との連携や教育システムの活用、保有技術の積極利用で対応している。環境面ではマテリアルズインフォマティクスに特化したデータ変革チームを組織し、情報科学で必要なデータベースの構築などを進めた。
これらの取り組みにより推進しているマテリアルズインフォマティクスで既に複数の成果を得ている。その1つがフィルム製品の配合検討だ。その配合検討では、扱う材料やプロセスの組み合わせが30万種類以上あり、これまでは技術者の勘や経験に頼り、配合設計に要する時間は5カ月以上に達していたという。。
そこで、同社はマテリアルズインフォマティクスを活用し、配合設計にAI(人工知能)の機械学習を適応して13種類の物性を同時に予測する技術を構築した。その結果、配合設計の時間は約4時間となり、大幅な開発期間の短縮を実現した。
現在は、実験の自動化推進チームの立ち上げを進めている他、素材だけでなく広い分野でマテリアルズインフォマティクスを活用するために、全社のR&Dを対象に利用できる機会を模索している。また、外部連携で得られた成果の検証も進めていく見込みだ。
なお、同社ではペロブスカイト太陽電池、CO2回収回収/利用(CCU)技術などの開発でサステナブルな社会の実現に向けた貢献を目指している。昨今は、長期ビジョンで、際立つコア技術を起点にイノベーションを起こし続けることで新領域を創出し、業容(社会への貢献量)を倍増させることを目標に掲げ、新しいモノづくりとコトづくりに挑戦している。
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