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積水化学と日立がマテリアルズインフォマティクスで協創、CMOSアニーリングを活用研究開発の最前線(1/2 ページ)

積水化学工業と日立製作所が材料開発におけるマテリアルズインフォマティクス(MI)の推進に向け協創を開始する。積水化学が持つ材料開発の高度なナレッジと実績、日立の研究所における先行研究の成果を含めた先進デジタル技術とナレッジを融合し、データ駆動型材料開発のためのデジタル基盤の実現を目指す。

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 積水化学工業(以下、積水化学)と日立製作所(以下、日立)は2022年9月20日、材料開発におけるマテリアルズインフォマティクス(MI)の推進に向け協創を開始すると発表した。2021年度からデータ管理/アナリティクス基盤の実用性や有用性の検証を行ってきたが、今後は積水化学が持つ材料開発の高度なナレッジと実績、日立の研究開発部門における先行研究の成果を含めた先進デジタル技術とナレッジを融合し、データ駆動型材料開発のためのデジタル基盤の実現を目指す。

積水化学と日立のMI推進に向けた協創の体制
積水化学と日立のMI推進に向けた協創の体制[クリックで拡大] 出所:日立

協創の森における日立の先行研究の紹介がきっかけに

 今回の協創は、積水化学がMIに必要とされるデータ利活用のためのデジタル技術を導入すべく日立との取り組みを2021年度からスタートさせたことが起点になっている。そして、単なるデータ利活用にとどまらない、MIに関するより深い協創に踏み込むきっかけになったのが、積水化学のMI推進メンバーが日立の研究開発本部の中核拠点である協創の森(東京都国分寺市)を訪問したことだ。日立 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 技師の照屋絵理氏は「日立から研究開発部門が開発した先行研究に当たる3つの技術を紹介したところ、魅力的かつ有用な提案と認めてもらえた」と語る。その後、積水化学の水瀬イノベーションセンター(大阪府島本町)で実際の実験に基づく意見交換を行うことで、今回の協創についての枠組みが決まった。

 日立の先行研究に基づく今回の協創のテーマは3つある。1つ目は「CMOSアニーリングを活用した材料特性の最適条件探索による、材料開発の高度化」である。日立は、アニーリング方式の量子コンピュータをシリコンICで疑似的に再現する「CMOSアニーリング」のサービスを提供している。組み合わせ最適化問題を得意とするCMOSアニーリングを材料開発分野に適用しその効果検証を行う。

「CMOSアニーリングを活用した材料特性の最適条件探索による、材料開発の高度化」の概要
「CMOSアニーリングを活用した材料特性の最適条件探索による、材料開発の高度化」の概要[クリックで拡大] 出所:日立

 新材料の開発は、研究者の知見やノウハウを基に実験を繰り返し行うことで実現されてきたが、時間やコストがかかることが課題になっている。多くの選択肢の中から最適な条件の組み合わせを高速かつ高精度に予測できるCMOSアニーリングを活用して、積水化学がこれまで取り組みを進めてきたMIに基づく複雑な配合設計を加速し、新材料の開発のサイクルのさらなる短縮や高度化を目指す。積水化学 R&Dセンター 先進技術研究所 情報科学推進センター MI推進グループ長の新明健一氏は「新材料の開発は数十〜数百ある原材料を多数組み合わせて生み出すため、その組み合わせの数は天文学的に膨大になる。CMOSアニーリングの活用で良い材料の候補が見つかることを期待している」と語る。

 2つ目のテーマは「AIを用いて材料開発知識の整理を自動化し、多様な知識を蓄積するナレッジベースを構築」だ。機械学習とルールベースのアルゴリズムを組み合わせた日立独自のAI(人工知能)を用いて、社内外のさまざまなデータの整理を自動化し、国や研究機関が公開するデータベースと統合して、研究者が着目する多様な知識を蓄積する「材料開発統合ナレッジベース」を構築し、その有用性を検証する。

「AIを用いて材料開発知識の整理を自動化し、多様な知識を蓄積するナレッジベースを構築」の概要
「AIを用いて材料開発知識の整理を自動化し、多様な知識を蓄積するナレッジベースを構築」の概要[クリックで拡大] 出所:日立

 既存データの整理だけでなく、公開データとの統合により不足情報を自動的に補完する他、AIを用いて正しい情報を整理できたかなど不確実性の評価も行い、情報の信頼性向上を図る。研究者は蓄積した材料開発知識を横断的に検索できるので、実験情報を収集する工数の削減や多くのデータを用いた高度な新材料候補の予測が可能になり、材料開発の効率化につなげられる。

 3つ目のテーマになるのが「実験デジタルツインの構築と実験データ収集の自動化による材料実験業務のDX化」である。材料開発の現場で行われる実験ワークフローをサイバー空間上に再現し、各プロセスに関わる材料、手法、装置、作業者といった実験データを関連付けて実験デジタルツインを構築する。また、実験業務の自動化/リモート化に向けて、実験で用いられる計測装置と実験デジタルツインの連携に向けた検討も行い、材料開発の効率向上に関する効果を検証する。

「実験デジタルツインの構築と実験データ収集の自動化による材料実験業務のDX化」の概要
「実験デジタルツインの構築と実験データ収集の自動化による材料実験業務のDX化」の概要[クリックで拡大] 出所:日立

 試料合成や計測など実験過程で生まれるさまざまなデータを収集し、各データと実験ワークフローの関連付けを行うのは、日立のデジタルソリューション群「Lumada」の一つで、工場の4M(huMan、Machine、Material、Method)データなどを収集する生産現場デジタルツイン化ソリューションとして展開されている「IoTコンパス」だ。このIoTコンパスと計測装置の直接連携によるデータ収集/解析の自動化も目指す。

 これまで一元管理の難しかった膨大な実験データを個々に関連付けて、俯瞰的な分析の容易化、データ検索やフォーマットの整合作業の負荷削減、実験結果の解釈や意思決定までのスピード向上などが図れる。実験データの一元化によって、研究者間のデータ共有や他の研究でのデータの再利用にもつながるという。

 これら3つのテーマの達成目標などは現時点では決めていない。取り組みを進めながら目標を定めつつ、積水化学に複数ある事業グループの中で少しずつ成果を積み重ねることで導入を広げていきたい考えだ。

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