積水化学と日立がマテリアルズインフォマティクスで協創、CMOSアニーリングを活用:研究開発の最前線(2/2 ページ)
積水化学工業と日立製作所が材料開発におけるマテリアルズインフォマティクス(MI)の推進に向け協創を開始する。積水化学が持つ材料開発の高度なナレッジと実績、日立の研究所における先行研究の成果を含めた先進デジタル技術とナレッジを融合し、データ駆動型材料開発のためのデジタル基盤の実現を目指す。
積水化学は2018年からMI推進の取り組みを開始
積水化学は、2030年に売上高2兆円、営業利益率10%を目指す「Vision 2030」を長期ビジョンとして掲げている。同社の2021年度の売上高が1兆1579億円であることを考えると、あと10年弱で売上高を約2倍の2兆円まで拡大させるには新分野への事業進出が欠かせない。
その一方で、素材・化学産業の全体的な傾向として製品ライフサイクルが短命化している。この短命化する製品を改良するための既存技術の改良が研究開発費の約9割を占めるという調査結果もあり、新分野への進出の起点となるようなイノベーションを生み出す非連続な研究に投資ができていない。その上で、現在注目を集めるカーボンニュートラルへの対応によって利用できる資源が限定される可能性もあり、イノベーションのハードルはさらに高くなっているのが実情だ。
これらの課題解決の一助になると考えられているのが、デジタル技術を活用するMIだ。世界で存在感を発揮している日本の素材・化学産業も、近年はMIへの取り組みを加速させている。積水化学では、高分子材料を用いた押し出し成形へのコンピュータシミュレーションの適用に始まり、2010年ごろから研究開発分野における統計解析の取り組みをスタートさせるなど、デジタル技術の導入を積極的に進めてきた。
その積水化学でMIを推進してきたのが、同社 R&Dセンター 先進技術研究所 情報科学推進センター センター長 兼 基盤技術センター センター長の日下康成氏である。高分子素材の研究開発、品質管理、製造を経て化学分析グループに異動した後、NMR(核磁気共鳴)によるスペクトル分析と多変量解析を軸に素材開発に対応する中で「NMRは材料の特徴をデジタル化して捉えることができる。このデジタル化という観点でもっと大きな武器があるのではないか」(日下氏)と考え、着目したのがMIだった。2018年に立ち上げたMI推進グループを核に、2020年には情報科学推進センターを設立するなど、積水化学におけるMIの取り組みを加速させている。
MIを推進していく上で重要なのがデータの整備である。素材・化学産業の研究開発では、実験ノートなど紙ベースのアナログな情報や、デジタルデータもExcelベースでしか残されてないことが多い。積水化学 R&Dセンター 先進技術研究所 情報科学推進センター MI推進グループの増山義和氏は「Excelベースで記録されるようになっていた実験データを基に、MIを前提としたデータの整備を始めた。ここまでの取り組みの成果もあって、研究者がデータを活用する風土は出来上がりつつある。今回の日立との協創で、MIをさらに進化させられるのではないか」と説明する。
日立としても、積水化学とのMIの協創は新しい形での取り組みになる。日立 公共システム事業部 公共基盤ソリューション本部 デジタルソリューション推進部 部長の森田秀和氏は「これまでは、Lumadaなどの形で事業化したソリューションを提供することで、素材・化学メーカーとのMIの協創を行うのが一般的だった。今回は、協創の森における先行研究を紹介したことが起点となっている点が異なる。積水化学との協創の成果は、できれば将来的にLumadaのソリューションとして広く展開したい」と述べている。
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