住友ゴムが水の有無で硬さが変わるタイヤ用ゴム材料の開発プロセスを語る:材料技術(2/2 ページ)
住友ゴム工業は、あらゆる道にシンクロする開発中のタイヤ用ゴム材料「アクティブトレッド」の技術説明会を開催し、開発のプロセス、設計思想、メカニズム、性能確認の手法を紹介した。
スイッチ時間の問題は新構造で解決
しかしながら、イオン結合材料は、ポリマー、カーボン、シリカ、レジン、オイル、その他薬品など疎水性の素材を含むため、水をイオン結合部に供給する追加材料が必要となった。そこで、イオン結合材料の内部に水の通り道を形成する水浸透補助剤を開発した。水浸透補助剤はイオン結合材料に導入することで、内部のポリマー、フィラー、イオン化したフィラーの間に水が通れる道を形成する。水浸透補助剤の量を調整することで浸透する時間と範囲も制御できる。
また、住友ゴムは、イオン結合材料内部のイオン結合が水に触れると変形し、ポリマー同士やポリマーとフィラー、ポリマーと添加剤が擦れ、大きなひずみを生じエネルギーロスを発生する機構を開発し、採用した。
これらを搭載したTYPE WETの性能を確かめるために、同社は水浸透の確認実験や水による物性変化の測定、水によるエネルギーロスの測定、スイッチの繰り返し測定、同材料を用いたコンセプトタイヤで実車性能評価を行った。
水浸透の確認実験では、水があると暗く写る中性子透過画像の撮影装置「熱中性子ラジオグラフィー」を用いて、従来配合のゴム材料とTYPE WETを撮影した。その結果、従来配合のゴム材料に比べTYPE WETは暗く写り、ゴムに水が浸透することを確かめた。水による物性変化の測定では、TYPE WETを水に浸漬した状態で硬さの変化を測り、水に漬けてから2分で20%軟化し、1時間で34%軟化することが判明した。水によるエネルギーロスの測定では、TYPE WETを水に浸漬した状態でエネルギーロスの変化を計測し、水に漬けてから30分でエネルギーロスが11%増大することを確かめた。
スイッチの繰り返し測定では、TYPE WETで水浸透と乾燥を繰り返し硬さ変化を測定し、スイッチを繰り返し発現することやスイッチを繰り返しても乾燥すれば最初の硬さを再現できることが分かった。
実車性能評価では、TYPE WETを用いたコンセプトタイヤを装着した自動車でぬれた路面と乾いた路面のコースを走行し性能を確認した。その結果、ぬれた路面のコースでは周回数を増すごとにWETグリップ性能が向上し、乾燥後に乾いた路面のコースを走行させても同等のDRYグリップ性能を発現した。加えて、乾いた路面とぬれた路面で制動距離の差がほとんどないことも確かめた。
TYPE ICEの特徴と開発プロセス
TYPE ICEは、低温の氷上で軟らかくなる特殊イオン性化合物を用いたゴム材料で、特殊イオン性化合物の研究開発は北海道大学と共同で行っている。「通常の材料は低温で硬くなるため、特殊イオン性化合物では原理原則の逆を実現することが求められていた」(上坂氏)。
特殊イオン性化合物は、樹脂と軟化剤をブレンドしたもので、温度で混ざり方が変わり、構造が変化し軟らかくなる。また、同社は、TYPE ICE用のスイッチ素材として、低温で硬くなりにくいポリマー、低温でエネルギーロスが高くなるレジン、低温で凹凸ができるゴム材料の開発も進めている。
今後の展開
今後同社は、2024年にTYPE WETとTYPE ICEの機能を備えたアクティブトレッドコンセプトレベル1「次世代オールシーズンタイヤ」を、2027年にアクティブトレッドコンセプトレベル2「次世代EV(電気自動車)タイヤ」の商品化を発表する予定だ。住友ゴム 執行役員 材料開発本部長の水野洋一氏は「次世代オールシーズンタイヤでは、公表しているTYPE WETの機能は搭載される予定だが、TYPE ICEの機能は特殊イオン性化合物を用いた低温化での軟化のみになる見込みだ」とコメントした。一方、次世代EVタイヤは耐摩耗性がオールシーズンタイヤより高いものだとしている。
なお、将来はアクティブトレッドの技術を集約し全天候型のタイヤを実現するとともに、同社の性能持続技術や耐摩耗性向上技術を組み合わせてタイヤの長寿命化を達成する見通しだ。これにより、タイヤの製造本数を低減し、サステナブル社会に貢献する。
加えて、現状は天然ゴムを使用しなければならないなどの制約があるため業務用車両のタイヤでのアクティブトレッド採用は見込んでおらず、一般乗用車での導入に向けて展開を進めている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 住友ゴムのMIはレシピ共有でスタート、今はタイヤのライフサイクル全体を対象に
本連載ではさまざまなメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを採り上げる。第2回では住友ゴムの取り組みを紹介する。 - 住友ゴムとNECがタイヤ開発における匠のノウハウのAI化、思考の見える化で協業
住友ゴム工業とNECは、両社の協業により実現した「タイヤ開発における匠のノウハウのAI化」に関する記者説明会をオンラインで開催した。体系化が困難な官能評価の解釈および改良案の提示をAIによって実現する仕組みを確立するとともに、人材の教育/育成、ノウハウ伝承に役立てる。 - 住友ゴムがタイヤセンシング技術を2024年に発売、米国企業と故障予知サービスも開発
住友ゴム工業は独自のタイヤセンシング技術「センシングコア」を自動車メーカーに新車用のソフトウェアとして2024年に販売開始する。現在は米国車両予知会社のViaductとセンシングコアを用いたトータル故障予知ソリューションサービスの開発を進めている。 - 住友ゴム、住友理工、住友電工でリサイクル、廃棄物からイソプレン
住友ゴム工業は住友理工や住友電気工業と協業してサーキュラーエコノミーの実現に向けたリサイクル技術を開発する。 - 住友ゴムがサーキュラーエコノミー構想を策定、次世代EV用タイヤを2027年に発売
住友ゴム工業はサーキュラーエコノミー構想「TOWANOWA(トワノワ)」を策定したことを発表した。 - 住友ゴムの白河工場が目指す水素の地産地消モデルとは
住友ゴム工業は、福島県白河市の白河工場で、水素エネルギーを活用したタイヤ製造に成功した他、水素の地産地消モデルの構築を進めている。