住友ゴムが水の有無で硬さが変わるタイヤ用ゴム材料の開発プロセスを語る:材料技術(1/2 ページ)
住友ゴム工業は、あらゆる道にシンクロする開発中のタイヤ用ゴム材料「アクティブトレッド」の技術説明会を開催し、開発のプロセス、設計思想、メカニズム、性能確認の手法を紹介した。
住友ゴム工業(以下、住友ゴム)は2023年11月16日、東京都内で技術説明会を開催し、あらゆる道にシンクロする開発中のタイヤ用ゴム材料「アクティブトレッド」の開発のプロセスや設計思想、メカニズム、性能確認の手法などを紹介した。
都内であらゆる道にシンクロする開発中のタイヤ用ゴム材料「アクティブトレッド」の技術説明会を開催し、開発のプロセス、設計思想、メカニズム、性能確認の手法を紹介した。
自動車に求められる機能に対応するスマートタイヤ
同社は、近年自動車に求められている電動化、自動化、シェアリング、サステナビリティの機能に対応するスマートタイヤの開発を進めている。同社が掲げるスマートタイヤのコンセプトでは、セーフィテクノロジー、コアテクノロジー、エナセーブテクノロジーのいずれかあるいはそれらを複合的に搭載したタイヤをスマートタイヤと定義している。
セーフィテクノロジーとして、2015年に「エアレスタイヤ」を、2017年に「センシングコア」を、2019年に「性能持続技術」を、同年にエナセーブテクノロジーとして「サステナブル材料」の商品化を発表している。これらに続く、セーフティテクノロジーとしてアクティブトレッドを開発した。
住友ゴム 材料開発本部 材料企画部長の上坂憲市氏は「自動車を運転する際にドライバーは路面環境の変化に“不安”を感じている。例えば、乾いた路面では安全に走行できるが、ぬれていたり、凍結していたりすれば滑りやすい。解決策として、路面状態に合わせて低燃費あるいは高性能のサマータイヤやスタッドレスタイヤなどが使われているが、タイヤ交換や複数のタイヤを保有することがユーザーの負担になっている。そこで、アクティブトレッドの開発に踏み切った」と振り返る。
アクティブトレッドは、水に接触することでゴムが軟化し滑りにくくなるタイプ「TYPE WET」と、低温になるとゴムが軟化する「TYPE ICE」の2種類がある。
TYPE WETの特徴と開発プロセス
TYPE WETは、乾いた路面でもぬれた路面でもブレーキの距離が同じになることを目指したゴム材料で、乾いた路面とぬれた路面で同等のグリップ性能を発揮する。上坂氏は「グリップ性能は、アンカー摩擦力、粘着摩擦力、ヒステリシス摩擦力から成り、これらが高いほどより強い制動力を生じる。アンカー摩擦力と粘着摩擦力はゴムが軟らかいほど強くなり、ヒステリシス摩擦力は変形によるエネルギーロスが大きいほど高くなる。つまり、ゴムの軟らかさと変形によるエネルギーロスを、路面の状態に合わせて、変えられれば、どのような道でも効果的な制動力を発揮できる」と話す。
そのため、TYPE WETでは、路面の状態に合わせてゴムの軟らかさと変形によるエネルギーロスをスイッチ(変化)できることを目標に掲げた。開発にあたっては、まず乾いた路面とぬれた路面におけるサマータイヤのゴム摩擦力をシミュレーションで計算しゴムの最表面がグリップ性能に関係していることを発見した。
次に、ゴム最表面の硬さを40%減少し、変形によるエネルギーロスを13%増やしたタイヤでぬれた路面でゴム摩擦力を計測したところ、通常のサマータイヤが乾いた路面で発揮するゴム摩擦力と同等だと分かった。「ゴム摩擦力がDRY=WETになるゴム物性の値を見つけたことになる。ぬれた路面でゴム最表面のみをこの物性値に変化させれば、乾いた路面と同等の制動力を発揮できることになる。最表面の厚みは1mm程度とした」(上坂氏)。なお、ゴム最表面のみスイッチさせるメリットには、操縦安定性や低燃費性能など他の性能への影響を抑えられるメリットもある。
続いて、ぬれた路面で軟化し、変形によるエネルギーロスを増大する専用素材を開発するために、スーパーコンピュータ「富岳」などを用いて複数のシミュレーションを行い材料設計を進めた。これにより導き出した材料設計を基に、同社はENEOSマテリアル、クラレ、信越化学工業と共同で専用素材であるイオン結合材料を複数開発した。
イオン結合材料は内部のフィラーやポリマーの結合部が水に接触すると解離し軟らかくなり、乾燥すると結合し元の硬さに戻るという特徴がある。「これまでのタイヤ用ゴム材料は内部のフィラーなどが共有結合という強固な結合でつながり存在する。一方、イオン結合材料は、共有結合をイオン結合に置き換えることで、複数のポリマー間やポリマーとフィラー間の結合をイオン結合とし、水の有無で硬度が変化するようになっている」(上坂氏)。さらに、シミュレーションでイオン結合材料のイオン結合が水の有無で解離と結合を繰り返すことも確認している。
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