製造業に広がるメタバース活用、設計/生産/品質管理の事例を見る(後編):デジタルツイン×産業メタバースの衝撃(3)(5/5 ページ)
本連載では、「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」をタイトルとして、拙著の内容に触れながら、デジタルツインとの融合で実装が進む、産業分野におけるメタバースの構造変化を解説していく。
生成AIによる製造ラインレイアウト・ロボットトレーニング
NVIDIAのOmniverseでは直近で全産業での活用が進む「生成AI」の融合による高度化を図っている。製造ラインのレイアウト設計で生成AIを活用する場合、OpenAIのChatGPTにプランを入力すれば工場や製造ラインのレイアウトが自動生成される。
連載第2回で取り上げた製品設計においてはジェネレーティブデザインとして、要件に合わせて設計を生成する技術が既に活用されているが、製造ラインでも同様の展開が生じているのだ。今後生産技術に強みを持っている企業はこうした「生成AI×製造ライン設計メタバース」を活用して、自社ラインのノウハウを体系化/ソリューション化し、外販することや、ラインビルダー化する展開が想定される。
またロボットトレーニングやインテグレーションにおいても「メタバース×生成AI」が大きく影響を与えている。メタバース環境上で仮想的にロボットの動作環境を再現し、そこでロボットのトレーニングやインテグレーションを行う。障害物を検知して回避しながら搬送を行う自律搬送ロボットや自動運転車などでは、さまざまなパターンの環境をトレーニングし動作を高度化させる必要がある。そうした際においても、生成AIを通じてパラメータを設定したメタバース環境を作り、その中でロボットをトレーニングさせることが可能となる。
さらにはロボットの制御/インテグレーションの在り方も大きく変わる可能性が出ている。専門的なロボットプログラム言語の知識がなくとも、生成AIを活用して実施したいタスクを指示することで、コードを自動生成し、ロボットを制御/インテグレーションする試行も始まっている。
メタバース×生成AIでロボットSIerや、生産技術の在り方が変わる
メタバース×生成AIにより製造ラインレイアウトや、ロボットトレーニングを行うことや、専門的な知識がなくとも生成AI活用でロボットのプログラミング言語を生成できる。ロボットや製造ラインを導入しているロボットシステムインテグレーター(ロボットSIer)や、ラインビルダーと呼ばれる業界のオペレーションも今後変化していくことが想定される。
業界として業務の逼迫や人員不足が課題としてあげられているが、こうしたメタバース×生成AIを活用して土台部分(70%など)は効率化し、残りの30%をエンジニアが精緻化/高度化するといった形で変わっていくことも想定される。メタバース/生成AIはこうした生産技術など、今までデジタル化や体系化が難しい領域を大きく変えることになり、現場での暗黙知/ノウハウを有する日本企業にとってはこうした技術を積極的に活用し、自社の強みとして外販化等を検討していくことも有効な一手となり得るだろう。
⇒記事のご感想はこちらから
⇒本連載の目次はこちら
⇒連載「インダストリー5.0と製造業プラットフォーム戦略」はこちら
⇒連載「加速するデータ共有圏と日本へのインパクト」はこちら
筆者紹介
小宮昌人(こみや まさひと)
JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ株式会社 プリンシパル/イノベーションストラテジスト
慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所を経て現職。2022年8月より政府系ファンド産業革新投資機構(JIC)グループのベンチャーキャピタルであるJICベンチャー・グロース・インベストメンツ(VGI)のプリンシパル/イノベーションストラテジストとして大企業を含む産業全体に対するイノベーション支援、スタートアップ企業の成長・バリューアップ支援、産官学・都市・海外とのエコシステム形成、イノベーションのためのルール形成などに取り組む。また、2022年7月より慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科 研究員としてメタバース・デジタルツイン・空飛ぶクルマなどの社会実装に向けて都市や企業と連携したプロジェクトベースでの研究や、ラインビルダー・ロボットSIerなどの産業エコシステムの研究を行っている。加えて、デザイン思考を活用した事業創出/DX戦略支援に取り組む。
専門はデジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)があり、2022年10月20日にはメタバース×デジタルツインの産業・都市へのインパクトに関する『メタ産業革命〜メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる〜』(日経BP)を出版。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
- 問い合わせ([*]を@に変換):masahito.komiya[*]keio.jp
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ⇒「デジタルツイン×産業メタバースの衝撃」のバックナンバーはこちら
- 製造業こそ「メタバース」に真剣に向き合うべき
2022年は「メタバース」に関するさまざまな技術やサービスが登場すると予想されます。単なるバズワードとして捉えている方も多いかと思いますが、ユースケースをひも解いてみると、モノづくりに携わる皆さんや設計者の方々にも深く関わっていることが見えてきます。一体どんな世界をもたらしてくれるのでしょうか。 - デジタルツインを「モノづくり」と「コトづくり」に生かす
製造業に大きな進歩をもたらすデジタルツインの姿について事例から学ぶ本連載。第3回は、生産やサービスの局面におけるデジタルツインについて説明する。 - 91.9%のメタバースビジネスが失敗、原因となる13のポイントを解説
クニエは、メタバースの事業化を経験した500人を対象に実態調査したレポートを公開した。事業化に失敗した割合は91.9%にのぼり、失敗するメタバースの特徴とともに成功のための提言を解説している。 - 産業用メタバース未導入の94%が「今後2年以内に始める予定」と回答
NokiaとErnst & Youngは「現場でのメタバース活用」をテーマに、企業用および産業用メタバースの現状に関するグローバル調査を実施し、その結果を発表した。 - 新たなフロンティアはメタバース、アクセンチュアが語るその可能性
アクセンチュアは2022年7月5日、世界の最新テクノロジートレンドに関する調査レポート「Technology Vision 2022」の記者発表会を、3次元の仮想空間「メタバース」上で開催した。登壇者や報道陣も自身の分身「アバター」で参加した。 - メタバースを活用した医療サービスの研究開発のため、産学共同講座を開設
順天堂大学と日本アイ・ビー・エムは、メタバース技術を活用した医療サービスの研究開発に向け、「メディカル・メタバース共同研究講座」を設置した。メタバース空間の構築や、メンタルヘルスなどの疾患改善への効果検証などに取り組む。