電気で抗菌性能を発揮する圧電繊維、使用後の堆肥化実証がスタート:リサイクルニュース
ピエクレックスは、開発した繊維「PIECLEX」の循環インフラ「P-FACTS」の実証を開始したと発表した。
村田製作所と帝人フロンティアの共同出資で設立されたピエクレックスは2023年10月12日、東京都内で会見を開き、開発した繊維「PIECLEX(ピエクレックス)」の循環インフラ「P-FACTS(PIECLEX FAbrics Composting Technology Solution)」の実証を開始したと発表した。
PIECLEXは、植物由来のポリ乳酸を原料とした素材で、人の動きで生じるエネルギーを微弱な電気に変換する機能を持ち、抗菌効果を発生させることができる。同社は長く使いたくなる繊維製品として、アパレルメーカーへ提供してきた他、自社企画で、業務用のTシャツ、タオル、ソックスなどの製造/販売を手掛けてきた。
当面は年間1万〜2万tの廃棄量を削減
国内では、最新の流行を取り入れた低価格の衣料品であるファストファッションのヒットを要因に、一般消費者が衣料品を購入してから廃棄するまでのサイクルが短期間になっている。これを主因に、衣料品における年間の廃棄量は50万トン(t)に達し、そのうち66%は埋め立て/焼却処分がなされており、リサイクル率は14%にとどまっている。さらに、販売されている衣料品全体の0.3%が購入されずにそのまま廃棄されている他、服1着の生産で25.5kgのCO2が排出され温暖化問題にも悪影響を与えている。
そこで、製品製造、販売、消費(着用)、回収、リサイクルを通して埋め立て/焼却処分を行わない衣料品のサステナブルファッションが求められている。P-FACTSもサステナブルファッションに向けた取り組みで、パートナー企業や自治体、福祉施設、学校法人など、多くのステークホルダーと連携/共創し構築した透明性が高い循環インフラだ。
P-FACTSは、植物由来のポリ乳酸を原材料にPIECLEXを製造し、それを衣料品などの生産に使い、この衣料品を一般消費者が購入し廃棄した後、回収して堆肥化し、堆肥を植物の栽培に利用して、成長した植物から抽出したポリ乳酸をPIECLEXの材料に活用する循環インフラとなっている。
実証では2023年10月〜2024年10月の1年間をかけてPIECLEXを使用したアパレル製品や繊維製品を回収し、農業や林業での利活用を目的とした堆肥化を行う。これにより課題や成果などを検証する。加えて、PIECLEXを活用した衣料品の一般販売も開始する。
ピエクレックス 代表取締役社長の玉倉大次氏は「PIECLEXを活用した衣料品は洗濯を繰り返しても人の動きを電気に変換し抗菌効果が持続するため通常の衣料品より長期間使える。加えて、P-FACTSによりPIECLEXを用いた衣料品を焼却/埋め立て処分しない体制を構築することで真のサステナブルファッションを実現する。既に、短期間で省エネでPIECLEXを使用した衣料品を堆肥化する技術も開発している」と強調した。
具体的には、当面は堆肥化により年間1万〜2万tの衣料品の廃棄量削減を目指し、埋め立て/焼却処分を減らす。PIECLEXを利用した衣料品の回収では障害者支援団体と連携し障害者の仕事も創出する。その繊維を用いた衣料品を堆肥化したものは農業/林業の従事者が作物などの栽培で利用する見込みだ。なお、PIECLEXの原料は天然資源のポリ乳酸であるため、石油由来の材料を用いた繊維と比べて生産で生じるCO2を30%以上も削減できるという。
今後は、2024年10月から実証内容を拡大し、P-FACTSを本格的に稼働する。2025年4月には「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」でP-FACTSの取り組みや成果を披露する予定だ。
P-FACTSの連携/共創パートナー
現在、P-FACTSの連携/共創パートナーは、デンマークのスポーツブランドhummel、ファッションブランドのWRINN、narifuri、タオルメーカー成願のタオルブランドJOGAN、鴨志田農園、岩谷産業、ブリヂストン、戸田建設、立命館守山中学校/高等学校、田原本町(奈良県)、長岡京市(京都府)、守山市(滋賀県)、大和森林管理協会などだ。会場では、hummel、鴨志田農園、立命館守山中学校/高等学校、長岡京市の担当者がPIECLEXやP-FACTSを用いた取り組みを紹介した。
hummelでは、同社がスポーツウェアのオフィシャルサプライヤーを務めるプロバスケットボールチームの滋賀レイクスターズが2023〜2024年に着用するオフコートウェアの素材にPIECLEXを採用している。2024年からはP-FACTSを活用したアイテムを販売し、2025年からは滋賀レイクスターズのサポートチームの公式ウェアにPIECLEXを採用する予定だ。
東京都三鷹市にある鴨志田農園は堆肥化に注力しており、P-FACTSの実証ではP-FACTSの堆肥化を支援する。
立命館守山中学校/高等学校では2023年10月28日に開催するオープンキャンパスで使用するイベントTシャツの素材にPIECLEXを用いる。同学校 副校長の箭内健氏は「当校では、運動会や文化祭で各クラスがイベントTシャツを作成し、生徒や教員が大量のイベントTシャツを持つことになる。しかし、イベントTシャツには生徒の名前が記載されており、容易に廃棄できない。解決策として、今後はPIECLEXでイベントTシャツを作り、P-FACTSにより堆肥化する。この堆肥は学内の農地の肥料に活用し作物を栽培する見込みだ」と語った。
長岡京市は、2050年にカーボンニュートラルを実現するために、衣料品のPET繊維焼却で発生するCO2排出量を削減するためにP-FACTSの連携/共創パートナーとなった。今後は、毎年11月の2週目に開催される長岡京ガラシャ祭りでのP-FACTSのPRやPIECLEXを用いたタオルの販売、学校/保育所へのコンポストの設置などを行う。
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