これから先、日本が変化を遂げるには?:3D設計の未来(2)(2/2 ページ)
機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第2回のテーマは「これから先の変化に向けた日本の課題」についてだ。
2.新しい設計開発環境
デジタルネイティブに耳を傾ける
日本の平均年齢は48歳です。間もなく50歳に到達します。一方、海外の平均年齢はもっと若く、米国も中国も38歳です。若い世代といえば、最近ではデジタルを駆使して便利な世界を作れるスキルを備えた「デジタルネイティブ世代」の人たちの活躍も目立っています。
ここでのキーワードは“便利な世界”です。筆者は、日本でこのデジタルネイティブの人たちが便利な世界、便利な仕事のやり方をしようとしたときに、“これを阻害しようとするものが日本の企業の中にある”ように思えてなりません。これを阻害するのではなく、これを進めることのできる環境こそが必要だと考えます。
- デジタルツール活用の新技術を駆使することで……
- 設計/生産技術力を向上させる
- 海外生産コストに勝るトータルコストを実現する
- 国内調達による部品の安定供給体制を構築する
- 工程のデジタル管理を実現する
- プロダクトパートナーとの共創につなげる
- アイデアをすぐに形にできる環境を構築する
これこそが“これからのモノづくり”であり、デジタルネイティブの人たちに発揮してもらうべきスキルだといえます。
3.変わらない設計者の本質
一方、この20年間で設計者が行うべき仕事の本質に大きな変化はありません。
- 機械設計者の必要な知識
- 製図:JIS(ISO)に基づいた正しい製図
- 材料:機械材料の選定
- 機械加工法:部品の加工方法
- 公差設計:公差の設定の方法/工程能力指数
- 強度設計:強度設計につながる材料力学などの知識とCAEへの発展
- 信頼性設計:機能性の劣化を考慮する
- 要素設計:機械要素とその設計方法を理解する
これらについて、設計者はアナログ的な知識として学ぶ必要があります。この知識がベースにあることで、デジタルの活用が成り立ちます。例えば、AI(人工知能)を活用するとした場合、その学習に用いられる一つ一つの情報は設計の知識によるものであり、さらに、AIによって得られた結果の妥当性を判断する際にも、設計者の知識が必要となります。
AIの活用により、これら知識の組み合わせは人間が考える情報量をはるかに超えることになります。2022年から始まった「第4次 AIブーム」といわれる現在、「ChatGPT」(3.0)は40兆を超える知識を導くことができるようになりました。これは人間が一生涯に得られる知識の1000倍に相当する規模だといいます。
AIは単純な判断にとどまらず、何らかのアウトプットを生成する力があります。設計者が必要とする原理原則の知識を基に、AIによって「自分の知識にないものが得られる」ようになることは、エンジニアリングの世界に大きな変革をもたらすでしょう。ただ、少なくとも今の段階では「その最終判断は人間が行う」ということにはなりますが……。
「これから機械の設計開発環境はAIによってどう変化しますか?」とChatGPTに質問してみました。その答えを以下に抜粋します。
- (1)自動化と高度な設計最適化:
AIは、複雑な設計課題を自動化し、高度な最適化を実現します。機械の設計プロセスにおいて、AIは多くの設計変数や制約条件を考慮し、最適な設計を提案します。これにより、性能向上やコスト削減が可能になります - (2)シミュレーションとテストの向上:
AIは物理的なプロトタイプを作成する前に、仮想シミュレーションを高度化します。これにより、設計の問題点を特定し、修正するための迅速なフィードバックが得られます。また、AIは実際のテストデータから学習し、設計の改善をサポートします - (3)カスタマイズと個別化:
AIは顧客のニーズに合わせて機械をカスタマイズし、個別化するために活用されます。機械の設計や機能を柔軟に調整し、異なる市場や用途に対応できるようにします - (4)グローバル協力とチームコラボレーション:
AIは地理的に分散したチームとの協力を向上させ、設計プロセスを効果的に管理します。リモートコラボレーション、プロジェクト管理、コミュニケーションの改善などが含まれます
この答えは情報の組み合わせだといえますが、要点を的確に捉えています。「自動化」「仮想検証の充実」「クラウド」は3D CAD環境にとって重要なテーマです。生成AIが盛り上がる一方、これに歯止めをかけようとする動きもありますが、日本の企業が競争力を維持するにはAIを活用すべきだと考えます。 (次回へ続く)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 3D推進者が見た「3DEXPERIENCE World 2023」(設計の未来編)
SOLIDWORKSの年次ユーザーイベント「3DEXPERIENCE World 2023」のDay2では、設計/解析/製造の3つのドメインセッションを展開。本稿では「The Future of Design」をテーマに据えた設計領域の講演内容をお届けする。 - 【ケース1】どうする!? 3D CADデータの管理
3D CADの本格運用に際して直面する「データ管理」に関する現場課題にフォーカスし、その解決策や必要な考え方を、筆者の経験や知見を交えて解説する。第1回のテーマは「どうする!? 3D CADデータの管理」だ。まずは、設計現場でよく見られるデータ管理の実情を踏まえつつ、あるべき姿について考える。 - JIS製図って何ですか!? 設計意図を伝える「正面図」の重要性
連載「3D CADとJIS製図の基礎」では、“3D CAD運用が当たり前になりつつある今、どのように設計力を高めていけばよいのか”をテーマに、JIS製図を意識した正しい設計/製図力に基づく3D CAD活用について解説する。第1回は、JIS製図の概要と「正面図」の重要性について取り上げる。 - 設計者はどんな視点で設計者CAEを進めていくべきか【ケース1:構造物の強度解析】
初心者を対象に、ステップアップで「設計者CAE」の実践的なアプローチを学ぶ連載。詳細設計過程における解析事例を題材に、その解析内容と解析結果をどう判断し、設計パラメータに反映するかについて、流れに沿って解説する。第1回は「構造物の強度解析」について取り上げる。 - 公差がなぜ今必要なのか? 本当は日本人が得意なことのはず
機械メーカーで機械設計者として長年従事し、現在は3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者が公差計算や公差解析、幾何公差について解説する連載。第1回はなぜ今、公差が必要なのかについて話をする。 - データムはどうやって決めるの? 3D CADで考えよう
機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は具体的にデータムとは何により決められているのかを説明する。