超伝導量子コンピュータ国産2号機が誕生、量子シミュレーターと連携可能:量子コンピュータ
富士通と理化学研究所は2023年10月5日、埼玉県内で会見を開き、共同で設立した理研RQC-富士通連携センターで、国産2号機となる64量子ビット超伝導量子コンピュータを開発した。
富士通と理化学研究所(理研)は2023年10月5日、両者が共同で設立した「理研RQC-富士通連携センター」(埼玉県和光市)で会見を開き、理研が同年3月に公開した国産初号機となる64量子ビット超伝導量子コンピュータ(以下、初号機)の開発ノウハウをベースに新たに開発した64量子ビットの超伝導量子コンピュータ(以下、2号機)を報道陣に公開した。
量子シミュレーターとつながるプラットフォームも開発
2号機は、文部科学省の光・量子飛躍フラグシッププラグラム(Q-LEAP)「超伝導量子コンピュータの研究開発」の助成を受けて理研が開発し、2023年3月に公開した初号機をベースに、NTTの協力も得て、理研RQC-富士通連携センターで開発された。
構造に関しては、高電子移動度トランジスタ(HEMT)増幅器、高周波フィルター、極低温増幅器、電磁波遮断シールドに格納された64量子ビット集積回路チップ、筐体から成り、筐体の内部は超高真空極低温空間でいわゆるミックスドチャンバー(宇宙より冷たい空間)となっている。
2号機の演算機能の中心を担う64量子ビット集積回路チップは、初号機と同じく裏面に配線接続部を設けた垂直配線パッケージ「3次元接続構造」を採用している。この3次元接続構造と将来の規模拡大を見据えた余裕を持たせた配置スペースによって、設計変更することなく容易に1024量子ビットまで拡張できるようになっているという。
さらに、NTTが構築した量子ビット制御ソフトウェアを用いて量子ビットの高精度な制御を実現している。これによって、理想値で稼働すれば最大で2の64乗個の状態の重ね合わせ計算が可能になり、従来のコンピュータでは困難な問題の求解に役立つ。
量子コンピュータを運用する上で課題になっているのが、大規模かつ長いステップ(回数)の量子計算がノイズ(温度、電磁波、不純物)の影響で正確に行えないことだ。例えば、2号機では、最初の量子計算より大規模計算後の量子計算では、精度が30〜40%ダウンする。
解決策として、従来のコンピュータ上で量子コンピュータをシミュレーションする量子シミュレーターを使用することで長いステップの計算に対応できるが、ケースによっては量子コンピュータと同じ計算の速度が出力できない場合がある。
そこで、富士通は、理研の支援を得て、1号機および2号機と富士通製の40量子ビットの量子シミュレーターを連携させて利用できるハイブリッド量子コンピューティングプラットフォーム「Fujitsu Hybrid Quantum Conputing Platform」を開発。2023年10月5日から、両者の共同研究の下で企業や研究機関への提供を始めている。
同プラットフォームでは、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のサーバレスコンピューティングサービスAWS Lambdaなどを活用したスケーラブルなクラウドアーキテクチャを実装しており、量子コンピュータと量子シミュレータに対して共通のAPIを介したシームレスなアクセス環境を、富士通と理研との共同研究を通して、企業や研究機関に提供する。
これにより、特に量子化学計算における分子エネルギー計算のためのVQE(Variational Quantum Eigensolver)や、金融分野における量子機械学習アルゴリズムなど、従来のコンピュータと量子コンピュータが連動するアルゴリズムの開発において、量子コンピュータと量子シミュレータを状況によって使い分ける技術の他、将来的には、同プラットフォームと外部の量子化学計算ライブラリなどの連携機能も期待される。
同プラットフォームで、64量子ビット超電導量子コンピュータと40量子ビットの量子シミュレーターを連携させ、処理操作を指示する際には、Pythonあるいは、パルス、回路、アルゴリズムのレベルで量子コンピュータを操作できるオープンソースのSDK「Qiskit(キスキット)」を入力する必要がある。
両者は同プラットフォームを用いて、量子アルゴリズム精度評価手法や量子コンピュータ/シミュレーターのハイブリッドアルゴリズムの開発を進めている。量子アルゴリズム精度評価手法は、同一の問題を量子コンピュータと量子シミュレーターに投入し、結果を比較することでエラーの評価を行う方法で、量子エラーの緩和やエラー訂正アルゴリズムの開発につながると期待しているという。
量子コンピュータ/シミュレーターのハイブリッドアルゴリズムは、大きな分子を複数の小さなフラグメントに分割する量子化学計算手法「Density Matrix Embedding Theory(DMET)」と量子アルゴリズムを利用して、大規模な分子を高精度に計算するツールだ。このアルゴリズムは、同一の問題を条件(速度優先、精度優先など)により分割し、分割した問題について、量子コンピュータかシミュレーターに適切に振り分けて処理できる。
例えば、分割計算した個々のフラグメントの結果を結合する量子計算で使用すれば、計算量が小さい特長に着目し、結合計算に部分的に量子シミュレータを用いることで、ノイズ影響の大幅な軽減が求められる中でも計算時間の増大を抑えつつ高い精度を得られるようになる。
両者は、同アルゴリズムをH12(水素原子12個からなる水素鎖)の基底エネルギー計算に適用し、量子コンピュータのノイズ影響を軽減するAI(人工知能)による量子計算補正技術と組み合わせることで、既存の古典アルゴリズム(CCSD(T))を上回る精度でエネルギー計算が実行できることを世界で初めて確認したという。
同技術が持つ現状の課題は、分割した問題について量子コンピュータかシミュレーターに自動で適切に振り分けて処理できない点だ。そのため、富士通は、多様なコンピューティングリソースおよびさまざまなアルゴリズムをAIが自動で組み合わせて最適な計算を行うソフトウェア構想「Computing Workload Broker」の確立を目標に掲げている。
なお、2号機は搭載された64量子ビット集積回路チップを改良することで、2023年3月に公開した初号機より量子計算の精度は向上しているが、現行品の初号機とは同様のスペックとなっている。その理由について「2号機の開発に合わせて初号機の改良も行ったためだ」と富士通 富士通研究所 フェロー(量子研究担当) 兼 量子研究所長の佐藤信太郎氏は話す。
また、社会実装を目的に開発された国産機は2号機が初で、今後、産業界を中心に共同研究ベースで活用事例を増やし、両機で使える量子アプリケーションの開発につなげる方針を示している。佐藤氏は「現在は、量子科学計算のアプリケーションのみを展開しているが、今後は流体シミュレーションが行えるアプリケーションの開発にチャレンジしたい」と語った。
会場では、国産初号機の64量子ビット超電導量子コンピュータの愛称が「叡(えい)」に決定したことも発表された。
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