「誤り訂正」なくても実用化可能か、IBMの量子コンピュータ開発ロードマップ:量子コンピュータ
日本IBMは2022年6月29日、同社が同年5月に公開した量子コンピュータの開発ロードマップに関するオンライン説明会を開催した。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアや周辺機器なども併せて開発を進め、量子コンピュータの性能向上を図っていくとした。
日本IBMは2022年6月29日、同社が同年5月に公開した量子コンピュータの開発ロードマップに関するオンライン説明会を開催した。ハードウェアだけでなく、ソフトウェアや周辺機器なども併せて開発を進め、量子コンピュータの性能向上を図る計画だ。
2025年には4000量子ビット超へ
今回IBMが公開した開発ロードマップは、同社が開発した、あるいは今後開発予定の量子コンピュータのプロセッサや、関連するソフトウェアなどの概要をまとめている。
量子プロセッサについては、2019年に発表した27量子ビットの「Falcon」を皮切りに現在まで毎年新製品の発表を行っている。Falconは2021年7月に稼働開始した日本初導入となるゲート型商用量子コンピュータ「IBM Quantum System One」にも搭載されており、この他にも世界中で使用されている。2020年には65量子ビットの「Hummingbird」を公開した。これには信号線の配線などを効率化し、スケーラビリティを高める工夫などが取り入れられている。
2021年には127量子ビットの「Eagle」を公開した。世界で初めて100量子ビットを超えた量子プロセッサであり、同じ大きさのチップを貫通電極を空けて4つ貼り合わせる3次元実装技術を取り入れた製品である。IBMは3次元実装技術自体は以前から保有していたが、極低温下でも動作可能にするなどの新技術を可能にしたという。3次元実装においては、最も製造が難しい量子ビットの操作に関わるチップは最上層のみとして、他の層には共振器や配線などを配置する設計を採用した。それまでは共振器や配線の配置箇所などが課題となっていたが、これを解決するとともに、量子プロセッサの安定したスケーリングを実現している。
今後の計画としては、まず2022年末に433量子ビットの「Osprey」を公開する予定だ。従来、プロセッサとの信号のやりとりは同軸ケーブルを介して行っていたが、極低温下でも動作する複数の信号線を束ねたフラットケーブルに代替する。また、量子回路の状態を途中で観測して、回路の実行方法を変更することも可能な「動的回路」も搭載する。
2023年には1000量子ビットを超える1121量子ビットの「Condor」を発表する予定だ。これと同時期に、量子コンピュータの周辺機器である高周波部品の高密度化なども目指す。同年には新たにモジュール化の概念を導入した量子プロセッサ、「Heron」も公表する。2024年には1386量子ビット以上となる見通しの「Flamingo」を公開する計画である。モジュール化の概念を導入しており、複数のチップ間を1m以上の電気配線で結んだ製品となる見通しだ。同年には複数のプロセッサ同士を短い配線で結び付けた「Crossbill」も公開する。さらに2025年には、4158量子ビットの「Kookaburra」を公開し、それ以降も量子ビット数の向上に取り組む方針だという。
一方で、日本IBM 量子プログラム プログラム・ディレクターの川瀬桂氏は「量子コンピュータの性能向上においては、単なる量子ビット数の向上だけでなく、量子ボリューム(QV:Quantum Volume)や1秒間のゲート操作数などの指標も重要になる」と語った。
さらに現在はハードウェアの性能だけでなく、ソフトウェアの性能も非常に向上しているとした。「以前は実用的なアルゴリズムをしっかりと動かすには、まず誤り訂正技術が確立されなければならないと考える向きが多かった。しかし、(現在研究中の)ハードウェアとソフトウェアの技術を組み合わせれば、実用的なアルゴリズムが動作するようになる日もそう遠くないと考える人もいる」(川瀬氏)。
今後は古典コンピュータのリソースを量子コンピュータと協調動作させることで、複数のタスクを実行しても誤りを抑制できる技術の実装などが進む見通しだ。またIBMでは、長時間かけて量子回路の計算を実行する際にエラーの発生頻度を抑えるため、実行単位を小さく分けつつ古典コンピュータのリソースで相互につなげる、「回路編み(サーキットニッティング)」の技術についても研究を進めている。
IBMは量子コンピュータの周辺機器についても開発を進めている。例えば、フィンランドのBlueforsと協力して研究に取り組んでいる「全く新しい外見の量子コンピュータ用の冷凍機」(川瀬氏)がある。冷凍機は六角形の外観で、運用時は筐体を3つ程度つなげて運用を行う。モジュール化した量子プロセッサを導入することで、別々の冷凍機に量子チップが存在しても、全体として1つの量子コンピュータとして稼働し得る。
川瀬氏は今後の量子コンピュータ開発の展望について「ハードウェアの進歩とソフトウェアの進歩、そして世界中のユーザーの使用を通じて、実用できるユースケースの発見が望まれている」と語った。
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