DNPが透明導電フィルム市場に再参入、直径11nmの銀ナノワイヤを採用:材料技術
DNPは粒径11nmの銀ナノワイヤ分散液を用いた透明導電フィルムを武器に、一度撤退した透明導電フィルム市場に再参入する。
大日本印刷(DNP)とマイクロ波化学は2023年10月3日、マイクロ波を用いて製造した直径11nmの銀の導電繊維(銀ナノワイヤ)を使用し、高い透明性と導電性を両立した透明導電フィルムを開発したと発表した。DNPは同フィルムの販売を担当し同年12月にサンプル提供を開始し、2024年12月に量産をスタートする予定だ。今後、両社は同フィルムをDNPの光学フィルムと組み合わせてさまざまなセンサー用途で提供することを目指す。
導電後2分間で20℃から120℃まで温度を上昇
これまでの透明導電フィルムでは、PETフィルムに酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性金属酸化物で均一に薄膜を形成するために、真空中での成膜や高温焼結などの工程が求められた。ITO膜はそれ自体に柔軟性がなく急な温度変化などで導電部にひび割れが発生する恐れがあり、加工性と耐久性に懸念があった。また、近年はLiDAR(Light Detection and Ranging)をはじめとする車載用途センサーやカメラ用の透明ヒーターのニーズが高まっている。
そこで、DNPとマイクロ波化学は今回の透明導電フィルムを開発した。同フィルムは直径11nmの銀ナノワイヤを含んだインクが塗工されたPETフィルムなどをベースとするフィルムで、高い透明性と導電性を両立している。具体的にはPETフィルムベースのものだと全光線透過率は90.6%で、PETフィルムベースのものと黒アクリル板で構成されたシートの拡散反射率は0.36%となっている。
加えて、LiDARセンサー用の透明導電膜(ヒーター層)として導入した場合の透過率はPETフィルムベースのもの単体だと86.6%で、DNP製の低反射フィルムと組み合わせると透過率を90.5%にできると判明している。さらに、使用する11nmの銀ナノワイヤの導電性が高いため、導電から2分間で20℃から120℃まで温度を上げられることが分かっている。
用途としては、透明ヒーター、電子シェード、エレクトロ/クロミック、有機EL照明、太陽電池などの透明電極や電磁波シールド、スピーカー、アンテナを想定している。メインターゲットは透明ヒーターで2023年12月に開始するサンプル出荷ではA4サイズの透明ヒーター用の同フィルムを提供する予定だ。
量産に関しては、マイクロ波化学は銀ナノワイヤ製造用のパイロット設備を改良することで、DNPは以前に透明導電フィルムの生産で利用していた設備を流用することで、対応する見込みだ。DNP オプトエレクトロニクス事業部 開発本部 新製品企画グループ リーダーの橋本裕介氏は「この設備はユーザーが他のフィルムを採用したことで透明導電フィルムの生産で使われなくなっていた。なお、量産は光学フィルムの製造を行っている三原工場(広島県三原市)あるいは岡山工場(岡山市北区)で行う見通しだ」とコメントした。
両社の役割
両社の役割に関して、マイクロ波化学は同フィルムで使用する銀ナノワイヤ分散液の開発を担っている。銀ナノワイヤ分散液の製造手順はまず、パイロット設備で、多面体の(デカへドロン)構造を持つ数nmの銀クラスター(粒子や分子の集合体)の先端部(成長面)に強電界のマイクロ波を照射し内部加熱させる。そして、成長面に電界を発生させ周囲に拡散された銀ナノ粒子を集約し成長させる。これにより、成長面でのみ銀を成長させ、細くて長い銀ナノワイヤを作る。次に同手法で生産した直径11nmの銀ナノワイヤを基に分散液を製造する。
マイクロ波化学 取締役 CSOの塚原保徳氏は「銀ナノワイヤの製造手法ではこれまで設備内の容器全体を加熱して電界を発生させ成長面で銀を成長させる外部加熱が採用されていた。しかし、この手法だと、先端部の成長面だけでなく、全体を加熱してしまい、中心部にも銀のナノ粒子を集約し、ナノワイヤが太くなっていた」と従来手法の課題を指摘する。
一方、DNPは、銀ナノワイヤ分散液を透明導電フィルムに適用できるように、独自の配合技術でインクに仕上げる。このインクをウェット方式(塗料を用いて常温常圧環境の下で行うコーティング)の精密塗工技術で対象のフィルムに低温で均一に塗工し薄膜を形成して透明導電フィルムを製造する。橋本氏は「銀ナノワイヤ分散液をベースに作成したインクでは、PET、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルムの塗工に対応している」と語った。
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