協働ロボットを安全柵なく使うために必要な「リスクアセスメント」とは何か:協働ロボットのリスクアセスメント解説(1)(2/2 ページ)
協働ロボットを用いたアプリケーションに関するガイドライン「ISO/TS15066」に基づき、リスクアセスメントを実施する上での注意点を前編と後編の2回に分けて説明する。
協働ロボットのリスクアセスメントの概要
リスクアセスメントの方法は多種多様で「これをやっておけばよい」というような明確な形はありませんが、考え方についてはガイドラインISO 12100にある一連のサイクルが参考になります。
- 機械的制限の決定(一例として、誤った使用をしないように協働ロボットのベース軸の1軸を±90度の動作に限定する、使用するオペレーターの性別/年齢など使用上の前提条件を決めるなど)
- 危険源の同定(その条件において、何がなぜ危ないのかを確認)
- リスク見積もり(その危険源がどれくらい危ないかを推定)
- リスク評価
- リスク低減
上記のサイクルを通じて、リスクを低減することが「リスクアセスメント」です。
リスク見積もりについては、そのリスクを負った場合、切り傷なのか、骨折なのか、あるいは重篤な死亡リスクがあるのかという「危害の重大度」と、危険への暴露、危険発生の可能性、また危険回避の可能性は存在するか、といった「危害発生の確率」を加味してリスクの推定を行います。
これがリスクの評価となり、ピックアップしてきた危険源を評価し、許容できないリスクに対してリスクの低減策を講じます。
リスクの低減策を行った後、5から1に戻り、追加で制限や対策をかけた状態において危険源を確認するサイクルを再度行うことで、リスクを低減します。これを一度だけでなく、何度も繰り返すことが肝要です。
リスクの低減方法
リスクの低減方法はいくつかあります。
ステップ1:本質的な安全設計による措置
例えば、ロボットの筐体の軸部の隙間を大きくすることで指が挟まるリスクを低減する、といったように、危険源を除去し危害の重大度を下げることを目指します。また、安全機器として認められた機器を使用することで予防措置が取れます。
ステップ2:安全防護および付加保護方策
例えば協働ロボットの先端に鋭利な刃物などが装着されている場合、危険を伴うアプリケーションになりかねません。そこで、協働ロボットがこれ以上侵入できない、という安全平面の機能を使用して稼働エリアを制限する、または刃物を使わない時は自動的にカバーに収めるようにする、などが考えられます。
このように、安全機能を使用したり、対策を講じたりすることで危害の発生確率、危害の大きさを低減することを意味します。
ステップ3:使用上の情報で警告
ステップ1、2でも防ぎ切れないリスクも存在します。例えば、すし店で鋭利な刃物を有したアプリケーションが刺身を切る作業をする場合、人が近づいたら停止する機能が備わっていても、止まっている包丁に人が触れるとケガをするリスクがあります。
これを工夫して低減させることが技術者の腕の見せ所にもなりますが、除去しきれない部分は立て看板や標識、取り扱いのハンドブックに警告メッセージを記載して予防する必要があります。
これらのステップを踏むことでリスクを低減することができます。次回はISO/TS15066に基づいて、より具体的にリスクアセスメントについて説明します。
著者紹介:
ユニバーサルロボット日本支社 アプリケーションエンジニアリングマネジャー
西部慎一 (にしべ しんいち)
名古屋工業大学大学院でヒューマノイドロボットの強化学習アルゴリズムに関する研究を修了後、住友重機械工業に入社し、産業用ロボットギアユニットの設計開発を担当。 後にABBに入社して主にインド、タイ、中国などで海外自動車工場の塗装ロボットシステム立ち上げのプロジェクトマネジメントを担当。 2017年にユニバーサルロボットに入社、2020年よりプリセールス活動に注力し、技術トレーニング、新規アプリケーション開発、協働ロボット普及促進のためのリスクアセスメント啓蒙活動などに従事。
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