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3D CADの普及から製造業DXが語られるようになるまでの約20年間を振り返る3D設計の未来(1)(2/2 ページ)

機械設計に携わるようになってから30年超、3D CADとの付き合いも20年以上になる筆者が、毎回さまざまな切り口で「3D設計の未来」に関する話題をコラム形式で発信する。第1回のテーマは「設計/製造ITのトレンドの変遷」についてだ。

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2010〜2015年ごろ

 ドイツ発のインダストリー4.0に対する関心が一気に高まりました。それに関連し、現実世界のモノから収集したデータなどを基に、デジタル上で現実世界の状況を再現するデジタルツインにも注目が集まり、そのキーとなるIoT(モノのインターネット)技術が急速に進化していきます。デジタルツインはモノづくりの下流工程に限定したものではなく、上流の設計領域にも適用可能なものであり、設計改善に高い効果を発揮します。

 一方、BOMの運用や設計の標準化に加え、製品の構成をモジュールとして考えるモジュラーデザインという設計製造手法が自動車業界から始まりました。3D CADは製品の構成をパラメトリックなモジュールとして考える設計手法に適しているといえます。

 さらに、製品を機能ブロックとして捉え、シミュレーションを機能ブロックと連携させていく、モデルベースデザイン(MBD)という手法が確立されていきます。これにより、従来機能ブロックごとで行われていたシミュレーションの結果が、影響を受ける連携先へと渡され、その上でさらにシミュレーションを実施するという連成解析が実現されるようになり、複雑化する製品開発全体のスピードアップが図られるようになっていきます。

 このような中、3D CADは3Dデータを起点とするエコシステムを構成する要素としても捉えられるようになり、設計を行う3D CAD、シミュレーションを行うCAE、設計情報を管理するためのPDMの存在はより注目を集めることとなります。

2015年〜2020年ごろ

 3D CADによる可視化の話がありましたが、このころXRが台頭してきました(ここではVRを中心にお話します)。3Dとはいえ、3D CADで設計した3Dデータの確認手段は平面のディスプレイが常識でしたが、VRの登場により、仮想世界の中でリアルスケールの3Dデータをさまざまな角度(視点)から確認できるようになりました。

 また、3Dデータがなくても3Dスキャナーで実物を取り込んでデジタル化/VRに利用したり、工場などの空間全体を3Dスキャンして点群データ化し、そこに新規設備の3Dデータを挿入して設備レイアウトの検討に役立てたりすることも可能です。このように、3Dツール/3Dデータを活用したデジタルエンジニアリングの世界がどんどん広がっていきます。

 クルマの自動運転や工場での良否判定などでAI/MLの活用も急速に進んでいきました。さらに、簡単な作業や繰り返し作業などの自動化を支援するアプローチとしてRPAも登場しました。

 2020年に入り、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界全体、われわれの社会や暮らしを一変しました。ビジネスの観点でいえば、一向に進まなかった製造業でのクラウド利用もこのタイミングから変化してきた印象です。特に、業務系を中心にクラウドコンピューティングによるアプリケーションが多く利用されるようになりました。コロナ禍でリモートワークに代表される働き方改革へのニーズも高まり、「デジタルで仕事のやり方を変える」という考えの下、急速にクラウドコンピューティングの利用が広がっていきました。そして、こうした変化は製造業DXという大きな流れへとつながっていくことになります。

とはいえ、2Dでの設計もまだ多い日本の製造業

 ここまで、節目ごとのトレンドを紹介してきましたが、国内製造業の設計現場の変化という意味では、残念ながら以前からあまり変わり映えしていないような気がします(変化があったにしてもそれほど大きくはないと感じています)。

 お伝えしてきた通り、この20年もの間に、3D CAD/3Dデータを起点とした業務プロセス変革を実現する新しいテクノロジーや関連するソリューションなどがたくさん登場し、その都度注目を集めてきました。しかし、それらがどんなに素晴らしいものであっても、設計現場が2Dによる設計のままではそのメリットをフルに享受できません。

 ご存じの通り、国内製造業では2Dによる設計が根強く残っているといわれています。そうした現状を考えると、トレンドとしての盛り上がりほど、実際の変化は大きなものではないと推察します。もちろん、2Dの設計を全面的に否定するつもりはありません。設計対象や規模、取引先との関係など、さまざまな要因によって“2Dのママが最適”と判断する現場があっても当然です。

日本の製造業では3Dによる設計がいまだに普及していない
図2 日本の製造業では3Dによる設計がいまだに普及していない[クリックで拡大] 出所:2023年版ものづくり白書(経済産業省)

 ただ、そうかといって、世の中で起こっている変化を無視する/見ないでいるというのは危険だと思います。また、いつ変化の波が来るかも分かりません。急に取引先や親会社が3Dへシフトするといったことだってあり得ます。今、何が起きているのか、そのトレンドだけでもぜひつかんでおいてください。これは既に3D CADを導入している現場の皆さんにも共通していえることかと思います。将来のDXの実現に向けてどんなことができるのか? 何が課題になるのか? トレンドを押さえておくことで見えてくるものがあるはずです。 (次回へ続く

⇒ 連載バックナンバーはこちら

著者プロフィール

土橋美博(どばし よしひろ)

1964年生まれ。25年間、半導体組み立て関連装置メーカーで設計・営業・3次元CAD推進を行う。現在、液晶パネル製造装置を主体に手掛けるプレマテック株式会社で3次元CADを中心としたデジタルプロセスエンジニアリングの構築を推進する。ソリッドワークス・ジャパンユーザーグループ(SWJUG)/SOLIDWORKS User Group Network(SWUGN)のリーダーも務める。


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