米国本社CTOから日本法人社長へ、ADIの中村勝史氏が見据える「4つ目の変化」とは:組み込み開発 インタビュー(2/2 ページ)
アナログIC大手のアナログ・デバイセズ(ADI)は、コロナ禍によって半導体サプライチェーンに大きな変動が起こる中、どのような方向性で事業を進めようとしているのだろうか。同社日本法人 代表取締役社長の中村勝史氏に話を聞いた。
マーケティングも製造もハイブリッド戦略
MONOist 1970年の日本法人設立から50年以上経過し、日本の半導体業界でもかなりの老舗になった印象があります。
中村氏 ADIが海外で現地法人を初めて設けたのが日本だった。これは、先に述べた人をケアするという観点から、現地の顧客の声を実際に聞かなければならないという考え方がベースにあった。1978年には、海外半導体メーカーの中で先駆けてテクニカルセンターを設けて、製品をリリースする前に顧客の品質管理に合わせて解析を行えるようにした。これも日本の顧客の求めに対応するものだ。
ADIはアナログIC市場ではグローバルで2位だが、日本市場に限れば1位になる。これは、日本の顧客の声を聞くという姿勢を変わらず続けるとともに、技術にこだわりのある洗練された顧客を多く持ち、それらの顧客を丁寧にサポートする強い技術部隊があるからだ。近年の半導体市場におけるマーケティング施策は、WebサイトやECサイトなどを活用するデジタルGo to Marketが注目されているが、ADIは人にフォーカスしたヒューマンGo to Marketも重視している。デジタルかアナログのどちらかではなく、ハイブリッド戦略をとっている。
MONOist 近年は米中経済摩擦やロシアによるウクライナ侵攻など地政学的な問題があり、半導体製造のサプライチェーンの再構築が課題になっています。ADIはどのように対応していますか。
中村氏 マーケティング施策と同じくハイブリッド戦略だ。自社工場での内製もあれば、ファウンドリによる外部委託生産も活用する。TSMCだけでなく、日本国内にあるファウンドリなども活用している。これは、地政学リスクに対するレジリエンシーだけでなく、内製工場の競争力を高めるためにも必要なことだ。
この戦略は、顧客が製品を製造するファブを選べるということでもある。同様の観点から、地政学的な問題があっても中国市場から撤退することは考えていない。ビジネスをしっかりと継続し、ファブのインフラも確立していく。
MONOist 先ほど4つ目の変化として挙げていたシステムの複雑化に対してはどのようなソリューションを提案しているのでしょうか。
中村氏 当社の売上高を産業分野別でみると、産業機器が半分以上を占め、その次に車載、通信の順番になっており、7万5000品種の製品を12万のユーザーに届けている。そこで、各産業分野で求められるシステム技術のトレンドに合わせて顧客の課題解決につながるシステムソリューションを提案しており、事業としてかなり活発化している。
これまでの製品開発を支えてきたハードウェア開発に長けた技術者が高齢化する中で、複雑なシステムになりつつある製品の開発が根本的に進められなくなる可能性がある。そこで、システムを構成するサブシステムのレベルでの提案を行い、システムを構築する技術者がアナログを取り扱えるようにする。重要なのは、開発のレイヤー化やサブシステムごとの抽象化が可能になるソフトウェアの活用だろう。ソフトウェア技術者が高度なアナログを取り込んで製品やシステムを開発できるようにしたい。アナログ回路は、おおむねR(抵抗)、L(コイル)、C(コンデンサー)で構成されるが、このRLCを気にしなくてもアナログを取り扱えるようにしていく。
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