FDKと東芝がBLEモジュールで協業、2つの意味で「世界最小」を実現:組み込み開発ニュース
FDKと東芝は、東芝の独自技術「SASP」にFDKの高密度実装技術と小型シールド樹脂印刷技術を組み合わせることで「世界最小」のBluetooth Low Energy(BLE)モジュールを製品化したと発表した。
FDKと東芝は2023年9月1日、東芝の独自技術「SASP(Slot Antenna on Shielded Package)」にFDKの高密度実装技術と小型シールド樹脂印刷技術を組み合わせることで「世界最小」のBluetooth Low Energy(BLE)モジュールを製品化したと発表した。FDKがSASPの技術ライセンスを取得して製造と販売を行い、2023年10月から国内の一部顧客向けに、2024年3月から海外向けにサンプル出荷を開始する。主に、ウェアラブル、ヘルスケア、トラッキング、服飾などをはじめとする小型のIoT(モノのインターネット)機器向けに展開し、2025年度以降にこの世界最小BLEモジュールに関わる事業の売上高を数億円規模に拡大する計画だ。
東芝のSASPは、スマートフォンでの採用が拡大しているシールドパッケージ上にスロットアンテナを搭載する技術である。配線を形成する必要のあるダイポール/モノポールアンテナに対して、グラウンドに溝となるスロットを形成するスロットアンテナはシールドパッケージと相性が良い。さらに、アンテナを折り曲げて配線面積を削減するミアンダ化をスロットに適用することでSASPを実現した。
SASPは、マイコンや電子部品を搭載するのと同じプリント基板上にアンテナを作り込む一般的な通信モジュールと比べて、モジュール面積を小さくすることが可能になる。「今まで庭にあったアンテナを屋根に置くとイメージすれば分かりやすい」(東芝)。
今回両社が開発したBLEモジュールの外形寸法は3.5×10×1.0mmで、東芝が2021年1月にSASPを発表した際の4×10×1.0mmと比べてさらなる小型化を実現しており、重量も約0.09gから約0.08gに軽量化された。
これは、SASPに代表される東芝のアンテナ設計技術と、FDKがモジュール事業を展開する中で積み重ねてきた高密度実装技術と独自の小型シールド樹脂印刷技術の組み合わせによる成果となっている。また、搭載するBluetooth ICもノルディック・セミコンダクターの「nRF52811」から「nRF52832」に変更しており、汎用GPIOの数も13本から16本に増えるなど機能向上が図られている。
「世界最小」が示す2つの意味
いわゆるBLEモジュールは国内外の企業が提供しており、その外形寸法だけを見ると今回発表したBLEモジュールより小さい製品もある。ただし、SASPに基づくBLEモジュールは、メインクロック用の発振周波数32MHzの高速水晶振動子と、低消費電力モード用の同32.768kHzの高速水晶振動子、電源周辺の受動部品を内蔵しており、これらの条件を満たすBLEモジュールで世界最小となる。
さらに、BLEモジュールを搭載する機器の実装基板専有面積で世界最小になることも特徴としている。「一般的なBLEモジュールのアンテナを用いる場合、モジュールのアンテナ部の両サイドに配線禁止エリアを設ける必要がある。つまり、実質的な実装基板専有面積はT字状になってしまう。SASPはこの配線禁止エリアが不要であり、既存のBLEモジュールと比べて実装基板専有面積が半分以下になる事例もある。さらに、2種類の水晶振動子と電源回路も内蔵しているので、センサーと電池をつないで、Bluetooth ICのCPUに制御ソフトウェアを書き込むだけでIoT機器を実現できる」(東芝)という。
FDKはこれまでに、高密度実装技術と小型シールド樹脂印刷技術を活用して顧客の求めに応じてカスタマイズのモジュール製品を設計、量産する形でモジュール事業を展開してきた。電池や電源などのイメージが強いFDKだが、モジュール事業の売上高は全体の30%を占めるまで成長している。今回の東芝との協業を契機に、汎用モジュールとしてBLEモジュールの製造と販売を始めるが、これまでの実績を基にBLEモジュールにセンサーや電力源を組み合わせて顧客の最終製品手前までカスタマイズした状態での提供も視野に入れる。「より独創的な提案によって顧客の求めるものを提供していきたい」(FDK)としている。
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