再エネがポストコロナ社会で最重要の技術革新領域に、NEDOが調査結果を発表:製造マネジメントニュース
NEDOはコロナ禍前後での、社会変化に関する調査結果に基づいたレポート「ポストコロナ社会でのイノベーション像」を発表した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2023年8月22日、コロナ禍前後での社会変化に関する調査結果に基づいたレポート「ポストコロナ社会でのイノベーション像」を発表した。ポストコロナ社会では「再エネ・エネルギーシステム」領域のイノベーションが重要になるという指摘が最も支持された。
産業のデジタルシフトや脱炭素は想定ほど進まず
NEDOはCOVID-19が感染拡大していた2020年6月に、コロナ禍後の社会で求められるイノベーションを予測した「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」(以下、コロナレポート2020)というレポートを公開した。2020年以降には、コロナ禍だけでなくウクライナ問題や米中対立の激化、脱炭素に向けた機運の高まりなどさまざまなトピックが生じた。これらを踏まえて、コロナレポート2020で描かれた予測がどの程度進展したのかなどを調査分析するのが、今回の「ポストコロナ社会でのイノベーション像」の趣旨だ。2023年2月に調査を実施し、NEDOの技術戦略研究センター(TSC)に所属するフェローやアドバイザーから得た回答を基に作成された。
コロナレポート2020では「デジタルシフト」「産業構造の変化」「環境意識」「政治体制・国際情勢」「集中から分散へ」「人々の行動変化」の6領域で、社会の在り方や人々の価値観が変化すると予測していた。これらの内、今回の調査では、デジタルシフトにおける「テレワーク」、政治体制・国際情勢における「米中関係悪化・米弱体化」、産業構造の変化における「通信インフラ整備」などが想定以上に進んだという回答が多く見られた。
一方で、デジタルシフトの中でも「AI(人工知能)/感染追跡システム」や産業のデジタル化に関わる「オープン化、標準化による全体最適化の進展」、産業構造の変化では「CO2を抑制する社会への移行」、集中から分散へでは「都市一極集中型から分散ネットワーク型への移行」などは、想定ほど進展しなかったという見方が多かった。
コロナ禍を経てテレワークやオンライン会議は日本をはじめ世界全体で新しい生活様式として定着した。一方で、産業構造のグリーン化やサプライチェーンの再構築が一層求められており、さらに国内では中小企業や地方でのDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などが今後の日本社会の課題となり得る。また、コロナ禍では環境分野における個人の行動変容はあまり生じず、むしろ宅配サービスの利用頻度が増すことでプラスチックごみが増加したという意見も見られた。
「再エネ・エネルギーシステム」の革新が必要に
調査では、ポストコロナの社会で重要性が増すと考えられる14分野のイノベーションについて、その重要度をフェローらに尋ねた。
その結果、今後重要視されると考えられるイノベーションとして最も支持されたのは「再エネ・エネルギーシステム」であった。ウクライナ問題などでエネルギー安全保障問題が強く意識されるようになっており、技術実証を通じた新規技術の開発が求められると考えるフェローが多かった。リデュース/リユース/リサイクルの3Rに関わる技術や、環境材料やバイオ材料、バイオプラスチックや生分解プラスチックに関わる技術開発の必要性を指摘する声も目立った。
イノベーションの実現のために、今後の日本にどのような国際連携が求められるかも尋ねた。フェローからは基礎研究分野での国際共同研究や、先端技術分野での国際競争力を確保することの重要性を指摘する意見が出た。また、全体的に経済安全保障を意識した回答傾向が強く、価値観を共有できる国々で戦略的な連携を図ることの重要性が意識されていた。
COVID-19が世界的に流行してからの3年間を総括し、NEDO 技術戦略研究センター ユニット長の徳弘雅世氏は「3年間でデジタル化の進展による新しい生活様式や働き方、エネルギー/経済/食料安全保障の重要性の増加、脱炭素への機運の高まりといった大きな社会変化が生じた。ポストコロナ社会では、循環/脱炭素型社会の実現や、AI活用によるDXの推進がさらに求められるだろう。実現に向けて社会制度やインフラ整備、国際連携を一体の取り組みとして進めていく必要がある」と説明した。
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