重要なCO2削減技術のポテンシャルとコストの算出式を示すNEDO総合指針2023を策定:脱炭素(1/2 ページ)
NEDOは「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2023(NEDO総合指針)」を策定したと発表した。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2023年8月22日、オンラインで記者会見を開き、「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針(NEDO総合指針)2023」を策定したと発表した。
NEDO総合指針策定の狙い
NEDOは2020年に「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2020」を発表した。その後、地球温暖化問題を取り巻く環境が大きく変化した。特に「脱炭素化の加速」と「3つの社会システム(サーキュラーエコノミー、バイオエコノミー、持続可能なエネルギー)を支えるためのデジタルトランスフォーメーション(DX)」の役割が大きく変わった。
そこで、NEDOは、2020年版を見直し、2050年のカーボンニュートラル実現を見据えた重要技術のCO2削減効果を総合的/客観的に評価するNEDO総合指針2023を策定した。
NEDO総合指針2023では、政府が2021〜2023年にかけて発表した「政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書(AR6)」や国際エネルギー機関(IEA)などの最新シナリオやデータに基づき、CO2排出量を1トン(t)削減するために必要な費用「限界削減コスト」の分析/試算方法を示している。さらに、カーボンニュートラルに向けた重要技術の分析も記載している。
加えて、さまざまな機関が公表した最新のシナリオなどに基づき、既往のCO2排出量削減技術のポテンシャルやコストの分析、試算を見直した他、カーボンニュートラルに向けた重要技術についての試算/評価を拡充している。
カーボンニュートラルに向けた重要技術の評価については、分野を超えて客観的に技術を判断するための評価指標としてCO2削減ポテンシャルとCO2削減コストを重要な要素に位置付けている。
CO2削減ポテンシャルは導入量×(従来技術排出源単位−新技術の排出源単位)で算出される。試算は、「技術の普及率を仮定して試算したケース」「専門機関の試算を参考にしたケース」「政府や業界の目標もしくは見通しに基づいて試算したケース」「最大の技術の普及または設備設置を想定したケース」といった4つの考え方をベースに行われる。
一例を挙げると、国内で化石燃料火力発電の代替として次世代太陽光発電を使用した場合のCO2削減ポテンシャルをこの式で試算すると約91億tのCO2排出量削減効果があることが分かる。さらに、水上(内陸水面1%)、建物壁面、農地、車載といった新用途/設置形態で次世代太陽光発電の導入量を積み上げた場合のCO2削減ポテンシャルを試算すると約63億tのCO2排出量削減効果を発揮することが判明する。
CO2削減コストは、CO2排出量を1t削減するために要する費用で、単位は円/tCO2で表す。将来開発される革新的なCO2排出量削減技術の社会実装によるCO2削減コストを以下の算出式で試算する。
NEDO 技術戦略研究センター ユニット長の仁木栄氏は「CO2削減コストは『学習曲線などの実績から想定されるケース』『政府や業界の目標もしくは見通しに基づいて試算したケース』『専門機関の試算を参考にしたケース』『その他のケース』といった4つの考え方に基づき試算される」と話す。
例えば、車載用太陽光発電の業界コスト目標を2030年に達成するとして、これを起点に車載用太陽光発電の普及率を仮定してこの式で試算すると2040年頃にCO2削減コストがマイナスに到達することが分かった。
「CO2排出量を削減する新技術は、開発が加速することによって、CO2削減コストが従来技術の限界削減コストを下回るようになると、急激に普及が進む。新技術の普及進展により、限界削減コストを大幅に削減することが可能となり、CO2対策の費用を大幅に減らせる」(仁木氏)
また、2050年カーボンニュートラル実現に向けた大幅なCO2排出量削減は技術的にも経済的にもハードルは高い。そのため、研究開発成果の創出とその成果の早期社会実装により、イノベーションを創出していく包括的な仕組み作りが必要不可欠だ。
NEDOの実績調査結果によれば、エネルギー/環境分野の技術開発が、売り上げを得られるまでに平均で20年かかることが判明している。「こういった状況を踏まえて、技術開発に早期に取り掛かり、イノベーションを推進することが重要だ」(仁木氏)。
2022年春からのウクライナ危機と新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、エネルギー供給の問題だけでなく、資源の確保と有効利用の重要性も増している。そのため、カーボンニュートラルへの取り組みを持続的に推進していくには、サプライチェーンの強靭化による資源の安定的な確保とサーキュラーエコノミーの推進による資源利用の効率化を図らなければならない状況だ。
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