重要なCO2削減技術のポテンシャルとコストの算出式を示すNEDO総合指針2023を策定:脱炭素(2/2 ページ)
NEDOは「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2023(NEDO総合指針)」を策定したと発表した。
NEDO総合指針策定2023の背景
IPCC第6次評価報告書によれば、産業革命以降、世界の平均地上気温は上昇し続けており、人為的な温室効果ガス(GHG)の排出が地球温暖化の要因となっていることの確実性が以前にも増して高まっている。
世界のGHG排出量は1990年以降から増加し続けており、2010〜2019年にかけて鈍化の傾向が見られるものの、いまだに減少に転じていない。2019年の世界のGHG排出量は590億トン(t)で全体の75%をCO2が占めている。2020年にはコロナ禍に伴うエネルギー需要の低迷などで約5%のCO2排出量低下が報じられたが、2021年にはGDP成長率の回復とともに約6%増加した。
第21回気候変動枠組条約締約国会議で2015年12月12日に採択されたパリ協定以前の政策に基づく取り組みが実施されたケースを想定した「Pre-Paris baseline」では2050年にCO2排出量が約540億tに到達すると予想されている。IEAが策定したシナリオ「STEPS」では、現在の政策/既往技術の普及によって約220億tのCO2排出量を抑えられると指摘している。
しかし、同機関が公表している報告書「The Net Zero Emissions by 2050 Scenario」ではCO2排出量をネットゼロにするためにはさらに320億tを削減しなければならないとしている。そのため、あらゆる分野でCO2排出量を削減するための技術革新が求められている。
一方、IPCC第6次評価報告書に記載されている1.5℃シナリオによれば、限界削減コストは2050年に200〜700ドルに達するとしている。さらに、太陽光発電、風力発電、蓄電池など、カーボンニュートラルに貢献技術のコストは継続的に低下してきているが、限界削減コストを世界が受容できるレベルまで引き下げるには、さまざまな技術分野で非連続な技術革新が不可欠だという。
NEDOの取り組み
これらの状況を踏まえて、NEDOでは、気候変動問題を人類共通の課題と捉え、気候変動問題を乗り越え、環境、経済、社会が調和を形成し、新しい価値が創造され続け、持続的に発展し続ける社会「持続可能な社会」を目指す必要があると提言している。
目指す未来像として「100年後、200年後も、その先も、世界が経済的に豊かで、環境に優しく、自然と共生した社会」「将来にわたり、自然界、生態系の多様性が維持、発展され続ける社会」「現世代の社会的ニーズを満たしつつ、将来世代の社会的ニーズを損なわず、むしろ将来世代のほうがより良い社会」を掲げている。
これらの未来像を実現するためにもCO2排出量の削減が重要となる。CO2排出量は、省エネルギー(省エネ)の推進や再生可能エネルギー(再エネ)、水素、バイオマスを石化燃料の代替としてエネルギーの創出に活用することで削減できる他、リサイクルとシェアリングによりエネルギーや物質自体の需要を低減することでも減らせる。
さらに、発電所や化学工場などから排出されたCO2を分離回収し、CO2回収/貯留技術(CCS)で地中に貯蓄し、その一部をCO2回収有効利用技術(CCU)で合成燃料やプラスチック原料の生産に利用することで、温暖化への影響を軽減できる。大気中のCO2については、植林などにより木をはじめとするバイオマスに固定化することで、CO2直接回収技術(DAC)により分離回収も可能だ。
仁木氏は「つまり、持続可能なエネルギー、サーキュラーエコノミー、バイオエコノミーといった3つの社会システムを実現していくことがCO2排出量削減で必須だ。これらを支える基盤としてDXが欠かせない」と語った。
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