原材料高騰しても営業利益は過去最高に、生産拠点の国内回帰も進む製造業:ものづくり白書2023を読み解く(1)(1/6 ページ)
日本のモノづくりの現状を示す「2023年版ものづくり白書」が2023年6月に公開された。本連載では3回にわたって「2023年版ものづくり白書」の内容を紹介していく。
日本政府は2023年6月に「令和4年度ものづくり基盤技術の振興施策」(以下、2023年版ものづくり白書)を公開した。ものづくり白書とは「ものづくり基盤技術振興基本法(平成11年法律第2号)第8条」に基づき、政府がものづくり基盤技術の振興に向けて講じた施策に関する報告書だ。経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で作成しており、2023年で23回目の策定となる。
当面の課題はサプライチェーンの最適化とDX
2023年版ものづくり白書の解説に入る前に、ここ数年のものづくり白書の要点を振り返っておきたい。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大を背景に、製造業を取り巻く環境が大きく変化してきた。この変化に企業が対応するためのキーワードとして、自己を変革していく能力「企業変革力(ダイナミックケイパビリティ)」が挙げられている。
このダイナミックケイパビリティを強化、促進、実現するために不可欠なものがデジタル技術であり、特に「ウィズコロナ」「ポストコロナ」の時代で非常に重要なツールになると論じられている。加えて、今後製造業のニューノーマルは「レジリエンス(サプライチェーンの強靭化)」「グリーン(カーボンニュートラルへの対応)」「デジタル(デジタルトランスフォーメーション、DX)」を主軸に展開すると指摘されている。
2023年版ものづくり白書ではこれらを背景に、現場の強みを生かしつつ、サプライチェーンの最適化に取り組み、競争力強化を図ることが重要だとされている。加えて、GX(グリーントランスフォーメーション)の実現にも不可欠なDXへの投資拡大、イノベーション推進によって生産性向上や利益増加を促進して、所得への還元を実現する好循環の創出することが重要だと述べられている。
第1回となる本稿では、2023年版ものづくり白書の「第1部 ものづくり基盤技術の現状と課題」の「第1章 業況」「第2章 就業動向と人材確保・育成」を中心に、製造業や生産の現状を確認したい。
営業利益は過去最高をマーク
製造業の業績動向について日本の実質GDP成長率をみると、2020年第2四半期に前期比マイナス7.9%(年率マイナス28.2%)と、リーマンショック後の2009年第1四半期(年率マイナス17.9%)を超える落ち込みとなったが、2020年第3四半期には前期比プラス5.6%(年率プラス24.5%)となった。2021年以降は増減が2%以内で推移しており、2022年第4四半期は前期比プラス0.0%(年率プラス0.1%)となっている(図1)。
業種別GDP構成比をみると、製造業は2021年時点で日本のGDPの約2割を占め、依然として日本経済を支える中心的な産業である(図2)。
企業の全般的な業況について、大企業製造業では原材料価格の高騰などの影響により、2022年第1四半期から5四半期連続で悪化している。中小企業製造業では2022年第2四半期以降、緩やかに改善していたが、2023年第1四半期には再度悪化している(図3)。一方で、2022年の営業利益は製造業全体で約19.0兆円と過去10年で最も金額が大きくなった(図4)。
中小規模事業者も含めた製造業の景況感についてみると、売上高について「増加」または「やや増加」を挙げる企業の割合が約半数ある一方で、営業利益について「増加」または「やや増加」と答えた企業の割合は約3割にとどまっている(図5、6)。
売上高の増減の要因については、それぞれ販売数量の増減が最も大きくなっている。特に売上高の増加に関しては、「販売単価の上昇」が昨年度よりも大きな要因となった(図7、8)。
他方、営業利益の増減要因としては、いずれも売上高やコストの増減が大きなものとなっており、特に営業利益の減少については、前年度よりも「売上原価(仕入値)の上昇」や「コスト(販管費)の増加」の影響が大きくなっている(図9、10)。
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