JAF(日本自動車連盟)は2023年7月14日、電動キックボードの衝突実験の結果を発表した。電動キックボードが街中で遭遇しそうな場面を再現し、走行速度やヘルメットの有無によって衝突や転倒の危険度がどう変化するかを調べた。
警察庁によれば電動キックボードに関する交通事故は2022年に41件発生し、このうち1件が死亡事故だった。2023年7月には改正道路交通法の一部が施行。特定小型原動機付自転車という種別が追加され、条件を満たした電動キックボードは16歳以上であれば免許なしで運転ができる。ヘルメットは努力義務となったが、衝突時のダメージが大きく重篤な障害が発生する可能性が高いためヘルメットを適切に着用して交通ルールやマナーを守るなど安全な行動が求められる。
ヘルメット非着用はハイリスク、対歩行者で加害者になる場合も
まず、縁石に乗り上げて転倒した場合の危険性を調べた。ダミー人形を載せた電動キックボードを時速20kmでけん引し、高さ10cmの縁石に垂直に衝突させて転倒時の頭部損傷値(HIC、Head Injury Criterion)を計測した。ヘルメット着用時のHIC値は1231.8だったが、ヘルメット非着用では約6倍の7766.2まで増加した。HIC値は1000を超えると脳障害の可能性が、3000を超えると非常に高い確率で重篤な障害が発生するとされている。
同じくダミー人形を載せた電動キックボードを時速20kmでけん引し、静止している自動車に衝突させる実験も行った。HIC値はヘルメット着用の場合は1次衝突(対象との衝突)が19.7、2次衝突(衝突後の転倒)が147.9だった。これに対し、ヘルメット非着用のHIC値は1次衝突が12.8、2次衝突が6346.3となった。
対車両の1次衝突は電動キックボードのメインフレームや人の腕が先に車両にぶつかるためHIC値は低い結果となっているが、ヘルメット非着用の2次衝突は頭がい骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高いことが示された。なお、ダミー人形の頭部を高さ1.6mからフロントガラスに落とした場合、クモの巣状にひびが広がって割れるほどの衝撃があり、電動キックボード乗車中に頭部から車両に衝突すれば重傷のリスクは高い。
ダミー人形を載せた電動キックボードを静止している歩行者に衝突させた場合のHIC値も測定した。電動キックボードのダミー人形はヘルメットを着用した。電動キックボードが時速20kmだった場合、1次衝突のHIC値は歩行者も電動キックボードも73.7だったが、2次衝突では歩行者側が6957.8まで跳ね上がる(電動キックボードは80.5)。衝突後に歩行者が転倒し、地面に頭部を打ち付ける格好になることで重篤な障害が発生するリスクが高まる。
電動キックボードが時速6kmの場合は、1次衝突のHIC値は歩行者が9.9、電動キックボードが16.3だったが、2次衝突では歩行者のHIC値が4351.8、電動キックボードが783.5となった。電動キックボードの速度が高いほど危険性が高まることが分かった。
静止している自転車に電動キックボードを衝突させた場合、どちらのダミー人形もヘルメットを着用していたためHIC値が1000を超えることはなかったが、速度が高いほど2次衝突のHIC値が上昇した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 電動キックボードの“汚名返上”、ホンダ発ベンチャーが立ち乗り三輪モビリティ
ホンダ発のベンチャー企業であるストリーモは2022年6月13日、電動三輪マイクロモビリティ「ストリーモ」を発表した。 - CAEの代わりにAIでボンネットの構造を分析、頭部傷害値が誤差5%で一致した
ホンダは、ボンネットの設計効率化に向けて、CAEで構造解析を行う前に、ある程度の歩行者保護性能をAIで判定できるようにする取り組みを始めた。既に1機種に40時間かかっていた性能の予測を、10秒程度に短縮することに成功した。今後はさらにCAEとAIの誤差をなくし、近い将来に量産モデルの設計に適用することを目指している。 - トヨタの人体モデルが無償公開、ユーザーによる改良、成果共有も可能に
トヨタ自動車は2020年6月16日、衝突事故での人体障害を解析するためのバーチャル人体モデル「THUMS(サムス : Total HUman Model for Safety)」を2021年1月から無償公開すると発表した。 - トヨタの仮想人体モデルに新バージョン、姿勢変化と骨や内臓の障害を同時解析
トヨタ自動車は2019年2月8日、衝突事故発生時の乗員や歩行者を再現するバーチャル人体モデル「THUMS」を改良し、バージョン6として発売したと発表した。最新バージョンでは、乗員の姿勢変化と、衝突時の骨や内臓の傷害を同時に解析することが可能になった。JSOLと日本イーエスアイを通じて販売する。 - ホンダの倒れないバイクが進化、後輪でのアシストで自然な操舵に
ホンダは「人とくるまのテクノロジー展 2022 YOKOHAMA」(2022年5月25〜27日、パシフィコ横浜)において、二輪車の姿勢制御技術「ライディングアシスト」を展示した。低速時などの転倒の不安を軽減し、安心してライディングを楽しめることを目指した。姿勢の安定だけでなく、車体を起こす/倒すといった動作が意のままに行えるようにする。 - ムラタセイサク君の“止まっても倒れない技術”を応用した電動歩行アシストカー「KeePace」
村田製作所と幸和製作所は、電動歩行アシストカー「KeePace(キーパス)」を共同開発した。倒立振子制御技術などが組み込まれた「アシスト制御システム」を進化させ、坂道での歩行サポートや旋回機能を強化している。