ChatGPTで製造現場カイゼンを簡単に、過去事例や注意点を引き出す生成AI活用事例:製造現場向けAI技術(2/2 ページ)
ChatGPTに代表される生成AI(人工知能)に大きな注目が集まっている。その中でいち早く製造現場の改善活動の支援ツールとして活用を進めようとしているのが、中堅自動車部品メーカーである旭鉄工とその改善の成果を外部に展開するIoTサービス企業のi Smart Technologiesである。両社の取り組みを紹介する。
ChatGPTに横展アイテムリストの事例を聞く
この横展アイテムリストによる改善活動により、実際に多くの成果を生み出してきた。改善活動の事例についても、上位概念を設定した200以上の事例を積み上げてきた。しかし、事例が増えれば逆に、目的に合致する事例を探し出すことが難しくなってくる。改善の効率を上げるための仕組みが、逆に負担になる面も出てきていた。さらに「書き方なども工夫はしてきたが、どうしても個人差が出てしまい、事例によっては活用しにくいものや分かりにくいものも出てきていた」と木村氏は課題感を示す。
こうした課題が生まれる中でChatGPTなど生成AIへの注目が高まり「これを使えないか」と考えたという。「横展アイテムリストの活用負荷が高まる中、ChatGPTを活用することで、自然言語で問いかけるだけで合致しそうな上位概念とその事例などを簡単に探し出せるようになる。さらに、入力方法のばらつきなども生成AIで吸収できれば、入力のバラツキ抑制などにもつなげられる」と木村氏は語る。
具体的にはChatGPTに横展アイテムリストの内容を読み込ませ、ChatGPTに自然言語で質問するだけで、上位概念も含めた最適な改善事例を回答できるようにした。例えば「マシニングのサイクルタイムの事例は?」と聞くと「設備」「狙い」「内容」「上位概念」「注意点」などを項目化して箇条書きで答えてくれる。
木村氏は「回答は安定しておらず間違いなどもあるが、生成AIを使う意図としては改善活動の発想を呼び起こすためであり、そういう意味では多少のブレは問題ない。逆に質問の意図を読み取って、想定している以上に分かりやすくまとめて回答してくれる場合もある。今回も注意点などは読み込ませたデータにはまとめられておらず、ChatGPT側が必要だと考えて取りまとめてくれている。こうしたまとめ方から新たな発想を喚起される場合もあると考えている」と意義について語っている。
現状ではシステム面での制約などもあり、まだ製造現場での本番環境で活用するまでは至っていないが、試験的に検証を進める中では「活用できそうな手応えは感じている」と木村氏は自信を見せる。
課題として挙げるのが、現段階では読み込ませることができるデータ量が少ないことだ。「横展アイテムリストの全ての事例を読み込ませることができているわけではないため、質問をしたときに意図した回答を引き出せない場合がある。ただ、いずれはこうした制約も解消していくと考えている」(木村氏)。
これらのシステム面での制約が解消された段階で、「カイゼンGAI(Generative AI)」として、i Smart Technologiesで外部に提供するソリューションにも組み込んでいく方針だ。「自社だけでなく複数社で改善活動の事例を共有し、それを生成AIにより簡単に引き出せるようになることで、より改善のサイクルを早めることができる。製造業にとって最も重要なのは改善活動の中身であり、それに付随する作業の負荷を徹底的に低減していく。その意味でも生成AIへの期待は高い」と木村氏は述べている。
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