越前/鯖江を「産業観光の聖地」にする、大反響モノづくりイベント仕掛け人の夢:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(5)(4/4 ページ)
本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は福井県鯖江市と越前市、越前町で開催される産業観光イベント「RENEW」の発起人である新山直広さんにお話を伺いました。
鯖江を支える「需要のあるニート」
――新山さんの過去のインタビュー記事を拝見していて、「需要のあるニート」という言葉が衝撃的でした。直接モノづくりはしていないけど、それを支える存在として重要視されていると感じたのですが、需要のあるニートとはどんな方々なんですか?
新山さん 初代RENEW事務局長の森一貴(もり かずき)くんという人がいて、彼も鯖江に移住したうちの1人なんですが、通称「森ハウス」というシェアハウスを鯖江で始めたんです。結果的にコロナ禍前は年間200人くらいが出入りする場所になり、今も15人ほどが生活しています。森ハウスに集まった人たちって結構面白くて、ある意味めちゃくちゃ意識が低くて悠々自適に暮らしているんです。
そういう人たちが増えて来て、最初は「なんだなんだ!?」となっていたんですが、実はみんな仕事ができる人たちで、土日だけショップの店番をしてほしいとか、イベント手伝ってほしいみたいな感じで引っぱりだこになったんですね。ある時飲み会である人に「新山くんていつも忙しいし捕まらないけど、あのニートの子たちってめっちゃ暇してるから手伝ってくれるんだよね」と言われました。うわこれ面白いと思って、「需要のあるニート」と名付けたんですが、僕らの町では暇な人が一番やる気が高いんです。
――どこかに勤めて働くとは違う方法で、モノづくりに参加しているのですね。
新山さん 森ハウスには「幸せに生きるために何をすべきか」が軸にある人が多いと感じます。これが10年前だったら、怪しい人が町に住み着いて怖いとなりそうですが、今は町のみんなが彼らを頼りにしています。ニートなのに忙しいみたいなヘンテコで面白い現象が起きていて、ニートブランディングだねなんて話しています。このムーブメントに僕は一切関わっていません。新しい世代が新しい価値観を作り出したんだと感動しました。これもまた予想外の発見でしたね。
生まれ故郷は大阪府
――休日はどのように過ごされていますか?趣味など教えてください。
新山さん 僕、趣味がなくて仕事人間で有名なんです(笑)。趣味といえるかは分かりませんが、小さい娘がいるので土日は極力休んで娘と遊んでいます。あとは、大学時代建築を学んでいたので、インテリア雑貨を集めるのが好きですね。
――学生時代に熱中していたことはありますか?
新山さん 生まれ故郷の大阪府吹田市はサッカーが盛んな街で、僕も中学生までサッカーに熱中していました。高校生になるとモテたい一心でバンドをやって、そのあたりから文化系の方に進みました。
――バンドはどんなジャンルの音楽をされていたのですか?
新山さん 「Hi-STANDARD」や「NUMBER GIRL」が流行っていた時代で、コピーバンドでそれらをカバーしたり、オリジナル曲を作って演奏したりもしました。大学生くらいからフィッシュマンズというバンドが好きで、今も時々ライブに足を運んでいます。
産業観光の推進でモノづくりの未来を照らす
――これからの夢や野望があれば教えてください。
新山さん 鯖江市と越前市、越前町の半径10km圏内のモノづくりエリアを「日本一の産業観光地域」にするという野望を持っています。
半径10km圏内に7つの地場産業(越前漆器/越前和紙/越前打刃物/越前箪笥/越前焼/眼鏡/繊維)があるというのは大きな強みです。現在33店舗あるファクトリーショップも、これからもっと増えていく可能性があります。
外的な要因としては、北陸新幹線の駅が開通予定で県外からももっと来やすくなります。モノづくりする側も、この場所に来てもらって見てもらうことに価値があるよねというムードが高まっています。これまでやってきたことをさらに強化させていけば、実現できるのではないかと思っています。
――なるほど。現時点で見えている課題などはありますか?
新山さん 土日はショップが閉まっている、鯖江や越前に来てもあまりコンテンツがない、バスなどの二次交通が弱いという課題があり、それを解決していくために2022年7月に一般社団法人のSOEを設立しました。SOEでは通年型の産業観光、宿泊施設の運営、各種スクールの運営、イベント事業、産業観光メディアの運営などに取り組む予定です。中でも、通年型の産業観光と宿泊施設が主な事業になりそうで、今まさに取り組んでいます。
産業観光は産地の生存戦略と捉えていて、OEM製造や自社製品開発とは違うキャッシュポイントとして伸ばしていきたいと思っています。今、体験プログラムを職人さんと一緒に作っているのですが、ちゃんと職人さんがもうかるような金額設定にして、体験される方にとっても価値の高い体験になるように検討しています。
宿に関しては、2024年に鯖江市河和田地区に1棟、今立(いまだて)地区に1棟開業して、そこから徐々に広げていく計画です。一箇所に大きな宿を建てるよりは、比較的小さい宿を地域に幾つか建設するつもりです。なぜ宿かというと、滞在時間を伸ばしたかったんです。鯖江に遊びに来ても、宿泊は金沢にする人も多くて観光の機会を損失していました。鯖江でモノづくりに触れて、そのまま泊まって次の日もまた楽しめるという流れを作るために、宿が必要だと考えています。
――鯖江市や越前市はこれからもどんどん進化していきそうですね!
新山さん このエリアを日本一の産業観光地域にすることが、モノづくりの町として続いていくことにつながると思います。10年後のこの町は、産業観光というものがちゃんと認識されて、世界でも越前鯖江は産業観光の聖地だと呼ばれるようになっていると想像しています。
これから取り組もうとしている事業も含めて、いろいろなことや人をうまくつなげて、地域の魅力をどんどん上げていけば、持続可能な地域になっていくと思います。それに向けて仲間達と作っている最中です。
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著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、100本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
広報・マーケティング
井上史歩
IT企業の広報在籍の後、ものづくり新聞にジョイン。ものづくり業界で働く女性のための新企画を制作中。
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