越前/鯖江を「産業観光の聖地」にする、大反響モノづくりイベント仕掛け人の夢:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(5)(3/4 ページ)
本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は福井県鯖江市と越前市、越前町で開催される産業観光イベント「RENEW」の発起人である新山直広さんにお話を伺いました。
RENEWを通じて移住してきた人も
――今では毎回3万人を超える来場者数になったRENEWですが、始めた当時と比較して変化した点や発見などはありますか?
新山さん 関わっているみんなの意識がめちゃくちゃ変わったと思っています。大げさにいうと、小さな産業革命を起こせたんじゃないかなと僕は思っているんです。
目に見える成果としては、鯖江市や越前市近辺でファクトリーショップ(工房直営のお店)が33店舗できました。10年前は自社製品さえ持っていなかった方々が、自社製品を開発しお店を開いているんです。お客さまとしても作ったその場所から買うというのは、解像度の高い購買体験になりますし、深いファンになってくれます。これによって、作り手とお客さまの密度が濃くなりました。これはすごく大きいことだと感じています。
――新しい取り組みを受け入れる地域の懐の大きさを感じます。
新山さん 鯖江市や越前市のモノづくりって、どちらかというと「産業」という意味合いが強いんです。生きるために続いてきたモノづくりともいえると思います。だから、あまり作家性を持っていなくて、例えるなら、職人さんが作ったものに「いい作品ですね」と言ったら、「ふざけんじゃねえ」となるような世界で、自分が作ったものは人が使うための商品だというアイデンティティーを持っているんです。
ですので、新しい商品を作ってみるとか、時代に合ったモノづくりをしてこの町は続いてきました。そういった土壌があるので、新しいことも受け入れられていったのではないかと思っています。
――他に、RENEWをはじめて変化したことや、生まれたものなどはありますか?
新山さん RENEWを始めてから、この地域で45人の雇用が生まれました。広い意味で、この土地の担い手になる人が増えていくというのも大きなことだと感じています。
――その45人は、どういう方々なんですか?
新山さん 4パターンあります。1つ目は、RENEWのパンフレットで採用活動している工房を探し、応募して働いている方。2つ目はRENEWが主催する「産地の合説」という宿泊滞在型の合同就職説明会を通して職人になった方。3つ目は職人そのものではなく、それを支えるバックオフィス的な仕事として企画職や営業職に就く方。4つ目はファクトリーショップが誕生したことで、ショップのスタッフとして働く方。この4つが主だと思います。
――いろいろな方面から福井にやってくる人がいるのですね。RENEWをやってきて、予想外だったことや思わぬ発見などはありますか?
新山さん まさかここまで大きくなるとは思わなかったです。こういうイベントって続かないことも多いのですが、マンネリ化せず進化させながらちゃんと続けてこられたのは、自分で仕掛けておきながら予想外だった部分もあります。RENEWに来てくれたお客さまが、ここで働きたいと移住してきてくれることも本当に信じられないし、14年前には僕だけだった移住者も今や珍しくない存在になりました。これは僕の中では全く予想していなかったことですね。
――予想を超えるほど、RENEWの影響は大きいですね。
新山さん 僕たちの町って「じゃない人」という言葉を使います。モノづくりする人に対して、そうじゃない人という意味です。ここはモノづくりの町なので、主語、主役が職人さんなんです。でも、モノづくりする人と一緒に走る僕たちデザイナーのような存在や、いいものを作るだけではなくデザインや販売についてきちんとマネジメントする人など「じゃない人」の存在も大事だというのをみんなが実感したことは、大きな変化だと思います。
――RENEWはイベントですが、イベントという枠に収まらず関わる人の考え方にも影響がありますね。
新山さん そうですね。最初、地域づくりをしたいと思って鯖江に来て、デザイナーという仕事をすることになりましたが、回り回って今、やりたかった地域づくりができていると気付いた時に、最高じゃんって思いましたね。
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