京セラが水使用量を99%削減可能なインクジェット捺染プリンタを発売:イノベーションのレシピ
京セラは、インクジェット捺染プリンタ「FOREARTH」を開発し、2023年秋頃に先行販売開始する。FOREARTHの発売を皮切りに、インクジェット捺染プリンタ市場に参入する。
京セラは2023年5月10日、大阪市内とオンラインで会見を開き、インクジェット捺染プリンタ「FOREARTH(フォレアス)」を開発し、同年秋頃に先行販売開始すると発表した。FOREARTHの発売を皮切りに、インクジェット捺染プリンタ市場に参入する。
処理液の塗布も行え省スペースでの運用に対応
FOREARTHは、同社が新たに開発したプリントヘッドやシステムを搭載している。これにより、「ほとんど水を使わない」「生地を選ばない」「色が変わらない」など、同社が独自開発した顔料インクの特徴を引き出せる。独自開発した処理液の塗布も行え、導入先を選ばず消費地の近くで生産できる。
京セラ 経営推進本部 IDP事業開発部 事業部長の向井健一氏は、「これまでのインクジェット捺染プリンタでは、プリントの品質を左右する処理液の塗布が前工程として必要で、広い設備スペースが必要だった。一方、FOREARTHでは、装置内で処理液の塗布も行えるため省スペース化が可能だ。さらに、プリントに顔料インクを採用することで乾燥工程のみでプリント生地が完成でき、大量の水を使用する染料アナログ捺染の工程(スチーム処理や洗浄など)を減らせる。これにより、染料アナログ捺染と比べると水使用量を99%削減可能だ」と話す。
顔料インクと処理液は含有成分が最適化されている他、FOREARTHで処理液の塗布量を制御可能とし、高いプリント品質の維持を後押しする。「通常の顔料インクは、プリントヘッドからの吐出が難しいため生産性を高めにくいが、FOREARTHでは循環式のプリントヘッドと顔料インクの含有成分を最適化することで、毎時250m2(600×600dpi)の印刷速度を実現している。物性が大きく異なる顔料インクと処理液の吐出性能も最適化しているため扱いやすい」(向井氏)。
なお、プリントヘッドの製造は鹿児島国分工場(鹿児島県霧島市)が担当し、周辺機器やインク、処理液の生産は京セラ ドキュメントソリューションズの枚方工場(大阪府枚方市)が担う。「国内で生産をスタートし、将来は海外での生産も視野に入れている」(向井氏)。
インクジェット捺染プリンタ市場参入の方針と市場の動向
グローバルのアパレル市場は、人口が増え続ける限り成長が見込まれる産業で、コロナ禍で落ちこんだが、2022年以降は平均5.4%の成長率で拡大する見通しだ。
しかし、これまで繊維/アパレル業界では、生地を染める際に、スチームや洗浄などの工程で大量の水を使用しており、その排水による水質汚染が世界的な問題となっている。在庫過多による大量廃棄問題も注目されており、早急な対応を迫られている。
加えて、アナログ捺染方式による衣服の染色が9割を占める市場で、環境負荷低減が強く求められており、デジタル化の流れが加速することが予想されている。向井氏は、「アナログ捺染方式による排水は世界における水質汚染の20%を占めている」と述べた。
また、フランスが2020年2月10日に公布したサーキュラーエコノミーを促進する法律では、衣類や家電などの売れ残り製品の焼却と埋め立てを原則禁止している。
こういった環境意識の高まりやアパレル市場の動向を踏まえて、京セラはFOREARTHを開発し、市場参入に踏み切った。
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