欧州の自動車産業が始めるデータ共有、「Catena-X」とは?:オートモーティブ インタビュー(3/3 ページ)
コロナ禍で見つかった課題や将来を見据えて動き出した「Catena-X」。これに込めた思いや狙いについて聞いた。
データを共有する価値のあるアプリケーション
MONOist エコシステムとして発展するには何が重要ですか。
Goller氏 Catena-Xが発展するには3つの柱が重要です。1つはエコシステムに参加して声を上げること。2つ目がソリューションを使うこと。3つ目がソリューションを構築することです。日本の自動車メーカーやサプライヤーにももちろんエコシステムに参加していただきたい。どのような標準が必要か、意見をあげてもらいたいと考えています。3つの柱がうまく機能しなければなりません。
MONOist Catena-Xでは共有したデータをどのように活用できますか。
Heubach氏 Catena-Xで開発中の機能の1つに「デマンドキャパシティープラン」があります。これまでは自動車メーカーとサプライヤーが連絡を取り、どのくらい生産能力に余裕があるのか、どれくらい需要があるのか、尋ね合って計画を立てる必要がありました。こうしたやりとりは仕入先や納入先の数だけ発生します。連絡や推測ではなくリアルなデータを使うことができれば、より良い生産計画を立案できます。自動車メーカーは在庫を減らし、サプライヤーもより精度の高い生産管理が実現します。
MONOist コロナ禍では車両を生産したいのに部品が届かなかったり、自動車メーカーの無理な計画にサプライヤーが疲弊したりしました。魅力を感じる企業は多そうです。他にはどのような機能を考えていますか。
Heubach氏 デマンドキャパシティープランの他、材料のトレーサビリティー、製品のCO2排出量、サーキュラーエコノミー、品質管理、デジタルツイン、パートナー企業のデータマネジメントなど、製造分野のさまざまな領域が含まれます。
レジリエンスやサステナビリティという意味では、他の産業との協力も重要です。化学、資源の採掘、半導体なども自動車に関わります。われわれは最初にシンプルなルールを決めました。自動車のバリューチェーンに関わるのであれば、どんな企業でも参加し、Catena-Xとつながることができるようにするというものです。
ただ、別の産業のネットワークまでCatena-Xで作ったり、管理したりすることは考えていません。例えば、ドイツでは産業機械向けに「Manufacturing-X」というイニシアチブがあります。こうしたネットワークとCatena-Xのネットワークをつなぐことで、他の産業とのデータ共有を実現します。
他国、他のコンソーシアムとも協調
MONOist 透明性や中立性が確保されても、大きな自動車産業を持つ国は欧州発ではなく自国のエコシステムを作りたがるかもしれません。電池などに関してコンソーシアムを立ち上げる動きもあります。エコシステムとして競合しませんか。
Heubach氏 日本で日本版Catena-Xが構築されることは歓迎します。地域ごとにハブができることもいいと考えています。北米やフランス、日本の自動車業界と協力しながらぜひわれわれのアイデアを成長させていってもらいたいです。
Goller氏 そこで重要なのは、オープンソースで構築するエコシステムであること、ルールやガイドライン、信頼、データ主権がしっかりしていることです。Catena-Xはドイツだけ、欧州だけのためのものではありません。テクニカルな部分はオープンソースでやります。SAPやVolkswagenはそのオーナーではありません。
各国で車載バッテリーやサステナビリティに関してそれぞれのイニシアチブが動き出しても、テクニカルなところで同じオープンソースのコードを使っていればネットワーク同士をつなげられます。複数のネットワークが1つのネットワークになる「ネットワークオブネットワークス」によってデータ共有のエコシステムをつくっていくことができるので、さまざまなイニシアチブと協力していきます。
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