コロナ禍で止まった世界中の自動車生産、改めて考えたい「BCP」:いまさら聞けない自動車業界用語(1)(1/2 ページ)
このコラムでは、自動車業界に勤めている人にとっては当たり前だけど、他業界の人からするとさっぱり分からない、自動車業界専門用語を幅広く分かりやすく解説します。用語の意味だけでなく、業界全体の動向を絡めて説明していきたいと思います。記念すべき第1回目は、現在コロナ禍でも非常に重要な役割を果たしている「BCP」です。
初めまして!
自動車部品メーカーに勤める
カッパッパと申します。
みなさんは働く中で業界特有の専門用語に
困ったことはないでしょうか。
私は数年前、他の業界から自動車業界に転職しましたが、入社当初は周囲の人が喋っている言葉の意味が全く理解できていませんでした。HVPT、PPAP、外設申(がいせつしん)、CPK、4Sなど、数え上げればきりがありません。
自動車業界に勤めている人にとっては当たり前だけど、他業界の人からするとさっぱり分からない。また、自動車メーカーごとに用語が違っていたり、同じ会社でも技術系と事務系、研究開発側と工場側では言葉の意味が通じない……なんてことも多々あります。
このコラムではそんな自動車業界専門用語を幅広く分かりやすく解説します。用語の意味だけでなく、業界全体の動向を絡めて説明していきたいと思います。
3万点の部品からなる自動車はBCPが不可欠
記念すべき第1回目は、現在コロナ禍でも非常に重要な役割を果たしている「BCP」です。
BCP(事業継続計画、Business Continuity Plan)とは「企業が緊急時において事業を継続するための復旧、代替計画、およびそうした事態を想定した事前対策や体制の整備」のことを指します。簡単に言うと「自然災害や火災など緊急事態が起き、生産できなくなった際にどのようにして製品の生産と供給を続けていくのかという事前検討、計画」です。
BCPでは、自社が生産できなくなった場合とサプライヤーが生産できなくなった場合、それぞれについて検討を実施します。部品を調達する際には価格だけではなく、サプライヤーにBCPがあり供給リスクが管理できているかも選定のポイントになっています。
自動車業界においてBCPは非常に重要です。その理由は大きく分けて3つあります。1つ目の理由は、部品数が約3万点ととても多く、そのうちの1つが欠けても生産ができなくなってしまうためです。1つでも部品がなければ完成車の生産は止まります。数多くあるサプライヤーにBCPがなければ災害、緊急時に部品供給が止まり、すぐにラインストップにつながります。
2つ目の理由は、人の命を預かる自動車の部品は品質が高いことが求められ、容易に代替ができないためです。自動車では安全を確保するために性能評価を経て採用され、厳格に管理されています。設備が壊れて部品が作れないので、他の工場やサプライヤー、設備で作ろうとしても、品質を十分に満たす製品は容易に作ることはできません。
3つ目は、トヨタ自動車のジャストインタイムに代表される在庫の少なさがあります。「在庫」はムダの代表例であると考え、小さい資源で生産を行っていくのが日本の自動車産業の特徴です。裏返せば災害などの緊急時にはすぐに在庫が底をつくということでもあり、いかに早く復旧、代替し供給を途切れないようにするかは極めて重要な課題です。
これに加え、日本は地震、台風といった自然災害がとても多い国です。いつどこで災害が起きてもおかしくなく、BCPを事前に十分練っておく必要があります。
サプライチェーンの全体像を把握する
BCPについて企業はどのような項目を検討べきなのでしょうか。まずは、サプライチェーンがどのように構築されているかを把握しておくことが必要です。どの地域にあるメーカーがどの部品を担当しているのか把握するのは一見当然のように思えます。
しかし、部品点数、関わる企業が非常に多い自動車業界では全体像を掴んでおくことは簡単ではありません。自動車業界は非常に裾野が広く、ティア1と呼ばれる1次サプライヤーの下にはティア2、ティア3、ティア4と非常に多くの企業が部品を供給しています。例えばトヨタは東日本大震災を教訓に「レスキュー」という情報システムを富士通と開発し、災害時に稼働の状況を即座に掴める仕組みを構築しています。このシステムは10次サプライヤーまで対象にしていることが特徴で、災害時にはクラウド経由で被災情報を集約し、サプライチェーンの中で供給にトラブルが起きている場所を半日で特定できる体制を整えています。
続いて、部品ごとの代替生産が可能な拠点を整理することも必要です。1つの工場だけでなく複数の工場で同じ製品を作っていれば、1つが緊急事態で生産できなくなっても部品を供給することができます。現在、自動車メーカーは生産拠点をグローバルに展開しており、部品メーカーも同様に進出しています。同じ部品でも、国内海外を含めて複数の生産拠点で作っていることも多く、そうした代替可能な拠点があるのかを把握しておかなければなりません。また、生産できたとしても、生産能力が十分にあるかどうかも把握しておく必要があります。
また、緊急災害時に向けた耐震、浸水対策も重要です。地震が起きても設備が容易に倒れないようにするためボルトによる固定、建物や配管の耐震補強、金型や図面などデータの保管、サーバの災害対策強化も欠かせません。電話回線の確保といったインフラ設備も整えていく必要があります。さらに、緊急事態が起こった際にどのように行動するのか、行動計画の策定も求められます。災害時には迅速に対応する必要があり、具体的な行動を定めておくことで、緊急時でも慌てずに適切に行動することが可能になります。
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