設計者が学ぶべきデザイン基礎知識 〜かたちの対応付け〜:設計者のためのインダストリアルデザイン入門(4)(3/3 ページ)
製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。引き続き“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識”として「かたち」をテーマに取り上げる。今回は「かたちの対応付け」についてだ。
デザインと設計のよくある課題
かたちの対応付けを行おうとした際に、必ずといってよいほど立ちはだかるのが、「技術制約」です。
ここでいう技術制約とは、デザインを検討する際の部品サイズなどの物理制約や法規制といった順守すべきルール、開発を進めるに当たって守る必要がある前提条件などのことです。コストに関する制限もこれに含みます。
例えば、先のドライヤーのケースを例に挙げると、「コストダウンの施策として、スイッチを1つにしたい」という技術制約がデザイン業務に課せられる場合があります。このケースにおいては、まず先ほどデザインしたスライドスイッチとプッシュスイッチのどちらの部品を削除するのかという判断が必要となります。
このケースにおいてはプッシュスイッチではなく、スライドスイッチを残す判断が適切です。なぜなら、3パターン以上のモードがある場合、現在どのモードかを認識するのにはプッシュスイッチではなく、スライドスイッチの方が優れているからです。プッシュスイッチで3パターン以上のモードを外観で表現するにはスイッチとは別にLEDや音声案内などの表示灯が必要になります。それを設置できる予算があるのであれば話は変わりますが、コストダウンから話が上がってきているのであれば、コストアップのアイデアは本末転倒です。
そして、プッシュスイッチをなくしたからといって、温度調節の機能を省いてよいというわけではありませんので、スライドスイッチだけで風量調節と温度調節機能を実現する必要があります。ここで、風量2水準、温度2水準とした場合、例えば図5のようなデザインパターンが考えられます。
このうちどのパターンが正しい対応付けかという判断は、誰もが納得できる合理的ロジックが組みづらい(ひとによって概念モデルが異なる)ため困難です。従って、こういったケースの場合、実務では過去製品や他社製品の実績、ユーザーテストの結果をもってデザインの判断をします。
以上、3回にわたってお届けした“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識”の解説は今回で終了となります。本連載で解説する“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識“を設計実務で実行するのはさして難しい話ではないかもしれませんが、製品開発のプロセス全体で一貫してこれらの考えを実行できれば、製品がより魅力的で優れたものになることは間違いありません。ぜひ日々の業務でご活用ください。
次回以降は、既存製品の事例や活用しやすい加工方法など、具体的な事例を通して、設計者のためのインダストリアルデザインについて解説していきます。 (次回へ続く)
Profile:
菅野 秀(かんの しゅう)
株式会社346 創業者/共同代表
株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他
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