生産性向上だけじゃない、パナソニックコネクトがChatGPTを全社導入した理由:製造業×生成AI インタビュー(2/2 ページ)
世界中で話題の「ChatGPT」。国内企業で早期に全社導入を決定した1社がパナソニック コネクトだ。ChatGPT導入に至った背景や活用の可能性について聞いた。
データ分析の作業時間を90分の1に
ChatGPTは幅広い業務への適用可能性がある。資料や提案書を作成する場合を想定してみよう。情報収集や情報整理、ドラフトの作成などをChatGPTに依頼すれば、業務時間を短縮し得る。浮いた時間で人間はより創造的な仕事に専念できるため、業務の質向上も期待できる。
パナソニック コネクトの社内では、データ分析やデジタルマーケティング、プログラム開発支援などの分野でChatGPTの活用が進んでいる。データ分析では、全社ミーティング開催後の自由記述アンケートの回答を対象に、感情分析の用途で用いた事例がある。回答は1581件あったが、ChatGPTは6分で分析を完了させた。人間が作業すると9時間かかる可能性があったとする。単純計算で、作業時間を約90分の1に短縮できたことになる。
また、向野氏が「ChatGPTの得意分野」と評価するのがプログラム開発支援だ。自然言語でコードの作成を依頼できる上、生成したコードをコメント付きですぐに返す。エラーの原因などを尋ねてもすぐに指摘する。
「ノーコードやローコードに関する考え方は劇的に変わる可能性がある。ChatGPTは自然言語でコードを生成できるので、本当の意味での“ノーコード”が生まれるかもしれない。プログラミング知識が全くない人が使いこなすのは難しいが、ある程度プログラミングに精通した人間の生産性は上がるだろう」(向野氏)
この他にも社内ITヘルプデスクの窓口として活用する、会議のタイムテーブル作成を依頼する、法務など専門的立場からの見解を聞くといった使い方も考えられる。翻訳作業や資料作成、製品情報に基づくプレスリリースなどの文章作成も可能だ。「1人ブレーンストーミング」のように、アイデアの壁打ち相手としても役に立つ。
ConnectGPTでは部門や個人別の利用ログは取得していない。ただ、プログラマーなどの技術職が、専門分野の質問をすることが多い傾向にあるようだ。回路設計のエンジニアからの技術的な質問も寄せられるという。
現在、パナソニック コネクトではConnectGPTの新たな活用アイデアを社内から集めている。一番多く寄せられているのが「社内データを使いたい」といった要望で、これに応えるべく、どの領域のデータベースと連携させるのが生産性向上に寄与するかを検討している段階だ。
「野良ChatGPT」を防ぐ
ただし、ChatGPTの利用については外部への情報ろう洩といったセキュリティ上のリスクも懸念されている。パナソニック コネクトがAzure OpenAI Serviceを利用するのは、こうした対策の一環だ。同サービスを使うことで、入力情報をAIの再学習に使うデータの二次利用などを防げる。また、機密情報を含む情報の厳密な分類と外部漏えいの禁止事項を明記した社内規定に従ってChatGTPの運用規定も定めており、「運用時に徹底している」(同社担当者)という。
今後、ConnectGPTと社内データを連携させることで新たなセキュリティリスクが生じる恐れもある。これについてはマイクロソフトと相談し、同社のベストプラクティスを参照しながら対策を検討していく方針だ。
河野氏はChatGPT利用者の多さを念頭に置いた上で、「もし全社導入しなければ、社員が自分のPCやスマートフォンからひっそり利用するリスクが増す。そうなれば情報ろう洩など予期せぬリスクが高まりかねない。これを低減できるのが、全社導入の大きなポイントの1つだ」と説明した。
新しいテクノロジーを使いこなす社員を育てる
生産性向上に加えて、パナソニック コネクトがChatGPTの導入を決定した理由がもう1つある。社員のAIリテラシー/スキルを高めるためだ。
「生成AIを巡る研究開発の進展は目覚ましい。しばらくしたら、ChatGPTに代わる全く異なるテクノロジーが登場する可能性もある。当社としてはConnectGPTやその周辺システム自体を作り込むよりも、新しいAIテクノロジーが出てきてもすぐに使いこなせる社員の育成を意識している。AIは現代の読み書きそろばんで、使うかどうかではなく、いつから使い始めるかが問われる時代だ。今後は自然言語によるAIアシスタントとの対話が一般的になる。社員にはこれに慣れてほしい」(河野氏)
AIリテラシーに関連して、パナソニック コネクトではConnectGPTを利用する上で注意すべき5つのポイントを社内で共有している。
- 回答が正しいとは限らない。最後は人が判断する
- 情報が最新ではない
- 英語の方が正確な返答が返ってくる
- 公開情報からしか回答しない。社内情報は非対応
- 未来予測はできない
回答の正確性が保証されない点は、世の中で広く指摘されている通りだ。資料作成でもプログラム開発でも、最終的には絶対に人間が確認しなければならない。
「情報が最新ではない」というのは、ChatGPTが2021年9月までの情報を基に判断していることによるものだ。このため、例えばITヘルプデスクの相談窓口として活用しようとしても、ITサービスやアプリケーションの最新バージョンのトラブルを解決できるとは限らない。
また、ConnectGPTに関連したAIスキルとしては、出力結果を効果的に制御するプロンプトエンジニアリングが重要だ。ChatGPTは期待する働きを丁寧に指定して頼むと、その分高精度で回答が得られやすくなることが知られている。
こうしたプロンプトエンジニアリングのノウハウは、各部門内で自発的に情報共有を進める動きが見られるという。向野氏は「ConnectGPTの最適な使い方は部門や職種で異なる。各部門が望ましい使用法を見つけて洗練させれば、より業務効率性の向上が図れるだろう」と期待を寄せる。
ChatGPTは部門や業種を問わず、業務全般のAIアシスタントといった位置付けで運用できる。これを念頭に河野氏は「業務別に特化したAIは構築するまでに時間も資金も多くかかる。そのため、導入後に正確性に問題があると、投資対効果が悪いなどとネガティブに捉えられがちだった。一方でAIアシスタントが普及すれば、AIに完全な正確性を求めるのではなく、現状のモデルをいかに使い倒すかを考える方向にシフトするだろう」と語った。
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