非可食バイオマスを用いた糖製造技術の基礎を確立、持続可能な原料から樹脂を創出:材料技術
東レは、DM三井製糖とともにタイで実証を行い、バイオマス原料を用いて、非可食植物由来の糖を製造する基本技術を確立したと発表した。
東レは2023年4月17日、DM三井製糖とともにタイで実証を行い、製糖工場で発生するサトウキビの絞りかす(余剰バガス)とでんぷん工場で発生するキャッサバ芋の絞りかす(キャッサバパルプ)などのバイオマスを原料を用いて、非可食植物由来の糖を製造する基本技術を確立したと発表した。
同技術は、東レが開発を進める「糖からモノマーを製造する技術」と組み合わせることで、バイオマスから繊維、樹脂、フィルムなどに用いるバイオマスポリマーの製造を一貫して行うことが可能となり、資源循環型社会の実現を後押しする。
酵素を膜で回収再利用し酵素使用量を50%削減
今回の実証は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援を得て、タイのウドンタニに設置した実証設備を用いて行った。実証事業期間は2016年9月〜2023年3月で、実際に設備を運転した実証運転期間は2018年8月〜2022年12月だった。実証設備は、年間3000トンのバガス処理能力を保有する。
同実証で、東レは、原料である未利用のバガスおよびキャッサバパルプを酵素と反応させることで、エタノール、乳酸、コハク酸などの発酵原料となる非可食糖を製造し、製造した非可食糖を膜分離により精製/濃縮する技術を実証プラントで検証した。非可食植物由来の糖は繊維や樹脂を製造する際に共通原料となる。
バガスを原料とした同技術の実証検証を通して、非可食糖製造でコスト高の要因となる酵素を膜で回収再利用することで、酵素使用量を50%削減できることも分かった。さらに、膜で糖を精製し、酢酸などの有機酸と非可食糖とを分離することで、発酵性に優れる非可食糖が得られ、可食糖と同等にエタノールやコハク酸へと発酵可能なことも判明した。
加えて、キャッサバパルプを原料とした非可食糖はキシロースを含まず、膜利用糖化プロセスで精製し粘性物質を除去することで、バガス由来の非可食糖と比べてグルコース純度の高い糖液を製造することができ、発酵での変換効率も良好であることを実証で確かめた。この非可食糖は、グルコース純度が高く、不純物も少ないことから、ナイロン66の原料となるアジピン酸を含めた各種化学品製造のトータルコストを減らせる可能性があるという。
今後は、タイの製糖企業やでんぷん製造企業などのバイオマス保有者と連携し、非可食糖の供給体制を構築することで、現在開発を進めている非可食糖からのアジピン酸製造技術のスケールアップを進める。さらに、非可食糖をグローバルに化学品企業に提供し、石油由来の化学品を、食糧と競合しない植物由来の製品に置き換えることで、循環型社会の実現に貢献する。
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