逆風下で上場するispace、国内宇宙スタートアップの可能性を切り開けるか:宇宙開発(2/2 ページ)
宇宙スタートアップのispaceが東京証券取引所グロース市場に上場したと発表した。国内の宇宙関連スタートアップ企業としては初の上場となる。
ミッション3の売り上げ計上から黒字化を想定
また、米国を拠点に開発を進めているシリーズIIランダーを用いる予定のミッション3については、ドレイパー研究所(Charles Stark Draper Laboratory)との協業により、NASAが進める民間事業者に月輸送を委託するCLPS(Commercial Lunar Payload Services)計画の受注を得ている。ドレイパー研究所を含めたチーム全体の受注金額7300万米ドルのうち、ispaceの契約分は5500万米ドルになっている。
さらにさまざまな民間企業からのペイロード需要を開拓しており、MOU(基本合意書)などを含む契約金額としては10カ国累計で約3億8000万米ドルまで積み上がっているという。
足元の景気減速などもありスタートアップに対して向かい風のある中で上場に踏み切ったispaceだが、今後の事業成長をどのように見立てているのだろうか。
2024年度の業績見込みでは、売上高は61億9600万円と前年度の6倍以上に拡大するものの、営業損失はそれを上回る71億1800万円を計上するため、大幅な赤字であることに変わりはない。今回の上場では売り出しは行わなかったものの、指定販売先への売り付けなどによって資金を調達しており、手元資金と併せて今後数年の開発は継続できる見通しだ。CFOの野崎氏は「既に事業は大きく動きつつあり、政府プロジェクトや民間需要から大きなキャッシュインが期待できる状態にある。今回の上場は市場環境がベストとはいえないが、スタートアップにとって資金調達は重要であり、まずは投資市場にアクセスする必要があった」と述べる。
黒字化の時期については、2025年度に実施予定のミッション3の売り上げが計上されるタイミングになる見通しだ。既にNASAのCLPS計画からの受注があるものの、民間企業からの受注で残りのペイロードを埋めることで売上高を約1億米ドルの大台に乗せたい考えだ。「2027年度以降は、シリーズIIランダーによって年間2回のミッションを実施できるようにしたい。今回発表したミッション1の月着陸が実現すれば、よりいっそうリアリティーを感じてもらえるだろう」(袴田氏)。
事業を拡大していく上でも、ミッション1の月着陸成功や最終的な安定状態の確立がなければミッション2以降にも影響が出る可能性はないのだろうか。袴田氏は「月着陸は確かに大変だが、これまでに全ての機能をチェックして問題がないことを確認しているし、信頼性が高く実績のある欧米の技術も取り込んでいるので高い確率で成功できるだろう。宇宙で事業をやることは容易ではないが、不可能ではない。ミッション1が順調に推移していることや今回の上場はそういった意味でいいメッセージになるのではないか」と述べている。
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