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設計者が学ぶべきデザイン基礎知識 〜かたちの種類〜設計者のためのインダストリアルデザイン入門(3)(3/3 ページ)

製品開発に従事する設計者を対象に、インダストリアルデザインの活用メリットと実践的な活用方法を学ぶ連載。引き続き“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識”として「かたち」をテーマに取り上げる。今回は「かたちの種類」について解説する。

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デザイン活用の具体例

 かたちの種類とその考え方の知識があれば、これまで曖昧で散文的だったデザイン(意匠)検討を合理的に進めることが可能です。また、デザイン(意匠)の検討内容に一定の網羅性を問われるようなケースでも活用可能でしょう。

 時間は無限にあるわけではありませんので、実際に網羅的な検証をすることは難しいですが、かたちの種類を軸に置いたアイデア展開をすることで、網羅性を担保しているかのように検証を進められます。

 網羅性が問われる際は、デザイン(意匠)案の振り幅をかたちの種類の観点で大きくすることと、一度でいきなり決めにかからず、一歩一歩でデザイン(意匠)を決めていくことが重要です。また、この進め方は検証に対する納得感を持てるだけでなく、手戻りを減らす効果もあります。そのため、前例のない新しい製品を開発する場合などには特に有効です。

 例えば、「ゴミ箱」の設計とそのデザインに取り組んでいるとします。検討の網羅性が重要なケースでは、まずこの製品の基本造形が四角柱であるべきか、円柱であるべきか、はたまた球であるべきかといった観点から決めていくのがよいでしょう。

 この程度の基礎検討でも、ゴミ箱の容積、設置スペース、加工方法とそのコストの制約を加味すると、「どうやら採用可能な基本造形は四角柱だけだ」と一意に決まることがあります。もし、これらの情報を持ち得るのであればデザイン案と併せて整理することを推奨します。

ゴミ箱の基本造形によるデザイン展開
図6 ゴミ箱の基本造形によるデザイン展開[クリックで拡大]

 基本造形が四角柱に決まったのであれば、次は四角柱のゴミ箱でどのような造形表現や組み合わせができるのかを考えていきます。この後の細かい検討は省略しますが、角Rの大きさやゴミを入れる穴のかたちなどの造形表現、組み合わせによってたくさんのかたちの種類が考えられます。このとき、少なくとも基本造形が四角柱だと決まっているだけで、その検討ボリュームを相当量減らすことができるので、開発全体としてのメリットも大きいです。

ゴミ箱の造形表現によるデザイン展開
図7 ゴミ箱の造形表現によるデザイン展開[クリックで拡大]

 ただし、この合理的なデザイン(意匠)検討の進め方には1つ懸念点があります。それは、合理的故に誰が取り組んでも類似のアイデアが出やすく、飛躍的なアイデアが出にくいということです。

 つまり、この進め方を分かった上で飛躍的なアイデアを出せるのが優れたデザイナーであり、そこにはセンスだけでなく、数多のノウハウが必要になります。ただ、“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識”という観点であれば、ここで解説されている内容でも十分といえるでしょう。

デザインと設計のよくある課題

 設計が進むにつれて、想定していなかった制約条件が後から発覚し、当初決めたかたちを崩さざるを得なくなるといったことはよくあります。また、それに気づいたときには、プロジェクト初期に外注していたデザイナーが既にメンバーから抜けていることも考えられます。そんな場面において、設計者がいかにデザイナーの意図をくんで設計変更できるかは、設計者自身がかたちの種類やその考え方をどれだけ理解しているかにかかっています。

 「内容物の干渉の影響によって製品の角Rの大きさを小さくしたい」などはよくある設計変更要望です。例えば、図8のケースにおいて何も考えずに該当のRの大きさだけを小さくすると、図8の変更案1のようなかたちになります。しかし、これは原案である図8左とは違う種類のかたちです。ここまでの内容を理解していればそのことに気が付くでしょう。

 こういったケースでは、対象部位の角Rの大きさを変更するだけでなく、それに併せて近隣のRの大きさも調整することで、かたちの種類を維持したまま設計課題を解決できます(図8の変更案2)。ただし、これはあくまでも“デザイナー不在のケース”での対応策であり、ぱっと見では把握できないデザイナーの意図がかたちに込められている可能性もあるため、できる限り担当デザイナーに相談すべきです。

デザイン変更の例
図8 デザイン変更の例[クリックで拡大]


 以上、今回は「かたちの種類」について説明しました。次回は、デザイン基礎知識における3つ目のテーマである「かたちの対応付け」を取り上げます。

 本稿で解説する“設計者が学ぶべきデザイン基礎知識“を設計実務で実行するのはさして難しい話ではないかもしれませんが、製品開発のプロセス全体で一貫してこれらの考えを実行できれば、製品がより魅力的で優れたものになることは間違いありません。ぜひ日々の業務でご活用ください。 (次回へ続く

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Profile:

菅野 秀(かんの しゅう)
株式会社346 創業者/共同代表

株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他

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