「かわいい」切子づくりは未来のため! 事務職から大転身した切子職人:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(2)(5/5 ページ)
本連載では、厳しい環境が続く中で伝統を受け継ぎつつ、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は切子グラスなどを製造する椎名切子(GLASS-LAB)を取材しました。
世界に10人もいない平切子職人
――これからの目標や夢をお聞かせください。
石川さん 最初の頃から椎名さんには言っているんですが、着物の帯留めを作ってみたいんです。切子の帯留め自体はもともとあるんですが、すごく高価でなかなか手が出せないんです。もっと安価で手に取りやすいものを作れないかなと思っています。
――石川さんはお着物を着られるんですか?
石川さん 着物好きなんです。あとは、ガラスでキラキラしたものが合うジャンルで考えると、コスプレ業界にも参入したいと思っているんです。
――コスプレ業界ですか! 服や靴に付いているキラキラした装飾とかですか?
石川さん そうです! 宝飾品っぽい飾りが多いので、使えるんじゃないかと思っています。昔、私自身がコスプレイヤーだったんですが、自分で作れるものと作れないものがあるんです。買うときも安ければいいというわけでもなく、自分で作れないとなるとなにかで代用することも多々あります。コスプレに使える飾りを探している人も多いと思うんですよね。
――ガラスの飾りだと高級感が出そうですね。
石川さん かわいいもの、カッコいいものを作りたいという気持ちがあるので、そういった需要があるならぜひ協力したいと思っています。
――10年後、どんなふうになりたいと思っていますか?
石川さん 大きな野望はありません。自分の時間を楽しみながら、仕事に没頭できる毎日がいいなと思います。椎名さんが大きな野望をいつも持ってくるタイプなので(笑)、私は「じゃあそれやるか」といって淡々とやりたいです。将来的にこの工房を離れる時が来たとしても、別の形で協力したり、技術を教えたりしてこの業界には携わっていきたいです。
椎名切子(GLASS-LAB株式会社)
所在地 東京都江東区平野1-13-11
代表 椎名隆行
会社HP GLASS-LAB株式会社(グラス-ラボ)
事前打ち合わせでお話を伺った際、石川さんはこんなふうにおっしゃっていました。
「よく、テレビで日本の職人とかやってるけど、あれってどうやってなるんだろう? と思っていて」(石川さん)
家族経営などごく少人数で切り盛りしている工房は、求人サイトなどで定期的に職人を募集することはあまりありません。石川さんは縁があって職人の世界に飛び込み、技術向上だけではなく、工房や技術の存続まで視野に入れてお仕事をされています。
取材をさせていただき、石川さんのような方が日本のどこかにまだたくさんいらっしゃるのではないかという気持ちになりました。ものづくり新聞のビジョンは「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」です。この「あらゆる人」の1人が石川さんだったのだと感じました。そのような方にも届く記事を書いていきたいと改めて思いました(ものづくり新聞/中野涼奈)。
著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、100本以上のインタビュー記事を発信し、町工場のオリジナル製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
広報・マーケティング
井上史歩
IT企業の広報在籍の後、ものづくり新聞にジョイン。ものづくり業界で働く女性のための新企画を制作中。
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