バイオフィルムを生きたまま内部まで観察できる透明化技術を開発:医療技術ニュース
東京慈恵会医科大学は、微生物の集合体であるバイオフィルムを生きたままの状態で数秒以内に透明化し、顕微鏡で観察する「iCBiofilm法」を開発、製品化した。バイオフィルムの構造を破壊せず、分厚いバイオフィルムでも数秒以内に透明化できる。
東京慈恵会医科大学は2023年1月23日、微生物の集合体であるバイオフィルムを生きたままの状態で数秒以内に透明化し、顕微鏡で観察する「iCBiofilm(アイシーバイオフィルム)法」を開発したと発表した。研究成果を基にした透明化試薬「iCBiofilm-H1」「iCBiofilm-H2」が、既に東京化成工業より製品化されている。
動物の組織や臓器については、透明化して顕微鏡で観察する技術が複数開発されている。研究グループはまず、従来の組織透明化技術でMRSA(メシチリン耐性黄色ブドウ球菌)のバイオフィルム透明化を試みたが、透明度やバイオフィルム構造の破壊、透明化処理にかかる日数などで問題が生じた。
しかし、組織透明化技術の1種に含まれる化合物イオヘキソールが、MRSAのバイオフィルムを瞬時に透明にすることを発見。そこで、イオヘキソールを基に、バイオフィルムの構造を破壊せずに500μmを超えるような分厚いバイオフィルムでも数秒以内に透明化するiCBiofilm法を開発した。
iCBiofilm法では、バイオフィルムを構成微生物細胞の屈折率に近いイオヘキソールなどの水溶液に浸漬するだけで透明化が進むため、透明化までの時間が従来法に比べ圧倒的に短い。また透明度も高く、より深部まで鮮明に観察できる。
バイオフィルムを蛍光標識抗体や蛍光色素で染色後にiCBiofilm法で透明化すると、内部の微生物細胞やタンパク質、細胞外多糖など、マトリクス構成成分の微細な構造と局在も観察可能だ。
iCBiofilm法は、MRSAだけでなくさまざまな細菌や真菌の透明化へも応用できる。研究グループは、真菌のバイオフィルムの構造や好中球によるMRSAバイオフィルムの貪食作用の観察に成功し、従来の知見とは異なる新しい観察結果を得ている。
さらに、試薬の種類と濃度を最適化することで、従来の組織透明化技術では不可能であった、バイオフィルム内部の微生物を生きたまま透明化して3次元で観察する透明化3Dライブセルイメージングにも成功した。透明化試薬にはイオヘキソールの代わりに高い透明化能と低い侵襲性を併せ持つイオジキサノールを用い、低毒性の蛍光プローブを使用している。
iCBiofilm法をさまざまな光学顕微鏡と組み合わせることで、バイオフィルムの詳細な構造に加え、微生物細胞の生理状態、代謝物の分布などの情報が高い空間分解能で得られる。これにより、バイオフィルムが原因となる難治性細菌感染症の予防法や治療法の開発にもつながるとされる。
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