細胞老化を促進し、寿命を制限するメカニズムを解明:医療技術ニュース
東京大学は、出芽酵母を用いてrDNAの不安定化に関与している老化遺伝子を同定した。加齢に伴い転写伸長因子Spt4が増加し、リボソーム遺伝子上の非コードRNAの転写活性を増強することで、rDNAの不安定化と細胞老化を促進する。
東京大学は2023年1月13日、出芽酵母を用いて、リボソームRNA遺伝子(rDNA)の不安定化に関与している老化遺伝子を同定し、細胞老化誘導機構を解明したと発表した。同大学定量生命科学研究所附属生命動態研究センター ゲノム再生研究分野 教授である小林武彦氏らの研究グループによる研究成果だ。
個体の老化は、老化した細胞の蓄積によって、組織の生理機能を一定に保つ恒常性が破綻することに起因すると考えられている。
細胞老化の研究に用いられる出芽酵母の寿命に影響を及ぼす原因の1つに、ゲノム中で最も壊れやすい部位であるrDNAの不安定化がある。研究チームは、rDNAの不安定化に着目し、細胞の老化を誘導する遺伝子の特定を試みた。
まず、長寿欠損株のrDNAの安定性を網羅的に解析し、転写伸長因子Spt4の遺伝子(SPT4)を欠損した株では、rDNAの安定性が大幅に増加し、寿命が延長していることを発見。SPT4が、rDNAの不安定化を介して老化を誘導する遺伝子であることが示された。また、SPT4欠損株では、rDNAの不安定化に関わる非コードプロモーター(E-pro)の活性が抑制されていることが分かった。
続いて、E-proからの転写活性を抑制し加齢に伴って発現量が減少する、ヒストン脱アセチル化酵素Sir2との二重欠損株でrDNAの安定性と寿命を解析した。その結果、Sir2とStp4は、相反してrDNAの安定性と寿命を制御することが明らかになった。
rDNA上のE-proを取り除いた株では、SPT4欠損による影響が見えなくなることから、SPT4欠損株で観察された寿命延長やrDNA安定化は、E-proからの転写活性によるものであることも確認している。
さらに、老化細胞でのSpt4の役割を調べるため、老化細胞を回収して解析。その結果、加齢に伴いSpt4が増加し、E-proからの転写活性はより増強されて、細胞老化を加速して寿命を制限させることが判明した。
Spt4とrDNAは、ヒトでも保存されている。今回の研究で得られた知見が、ヒト細胞の老化メカニズム解明や老化関連疾患の治療などに応用されることが期待される。
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