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振動と音に関する基礎量 その2CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(3)(1/4 ページ)

連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、“解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと”を主眼に、CAEと計測技術を用いた機械の振動対策と騒音対策の考え方や、その手順について詳しく解説する。連載第3回では、騒音計を使う際にいつも設定している「A特性」と「音響インテンシティ」について取り上げる。

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 今回は、騒音計を使う際にいつも設定している「A特性」と、「音響インテンシティ」について解説します。

⇒「連載バックナンバー」はこちら

A特性の騒音

 通常、騒音計をA特性に設定して騒音を測定します。A特性は、騒音測定値に周波数フィルターをかけることを意味しています。そのフィルターの特性を図1に示します。人の耳の感度は周波数によって異なるため、人がうるさく感じる度合いに合わせるように周波数に対して重み付けを行ったものがA特性です。A特性での騒音レベルの大小と人が感じる音の大きさの大小が一致していることになります。

騒音計のA特性
図1 騒音計のA特性[クリックで拡大]

 図1を見るとA特性は、1000[Hz]で0[dB]、100[Hz]で−20[dB]です。つまり、人は、1000[Hz]100[dB]の音と100[Hz]120[dB]の音が、同じくらいの大きさと感じるのです。20[dB]の差というのは振幅で10分の1です。これは注目すべきことだと思います。

 今の騒音計には「Z特性」があり、周波数分析をするときは通常、騒音計をZ特性に設定して騒音計から出る電圧信号をFFTアナライザにつなげます。しかし、対策の優先度を決める際、つまり何Hzの音をターゲットとするかを決めるときはA特性にして周波数分析するべきだと考えています。ちなみに、「C特性」は昔の騒音計にあったのですが今はあまり使われていません。

振動加速度測定値の補正

 騒音対策の1つに“音源対策”があります。音源の振動速度を小さくするとそれに応じて騒音は小さくなります。加速度ピックアップで振動を測定してFFTアナライザで周波数分析することが多いと思います。このとき得られるものは振動加速度です。連載第2回で振動のピーク成分が振動加速度と振動変位で逆転することを説明しました。

 騒音対策の場合、連載第2回で解説したように音圧は振動速度と比例するので、ピーク成分が振動加速度と振動速度で逆転することもあり得ます。振動測定の結果、幾つかの周波数成分が観測されて、そのうち最も大きい周波数成分をターゲットとしますが、間違った周波数成分をターゲットにしてしまうと、音源の振動を小さくしても騒音は下がりません。

 一方、A特性から、図1に示したように100[Hz]の音は人には20[dB]ほど小さく聞こえるので、100[Hz]成分の振動が観測されても、それに対しては対策する必要がないことがあります。

 ここでは、加速度ピックアップで測定された振動加速度から、ターゲットとすべき周波数成分を求める方法を述べます。

 まず、振動加速度を振動速度に変換する必要があります。連載第2回の内容から加速度振幅を(2πf)で割り算すると速度振幅になります。fは周波数です。この変換は、周波数分析結果に(2πf分の1)倍する周波数フィルターをかけることになります。このフィルターのゲインを「加速度→速度 変換ゲイン」と名付けて、図2の黄色の線で示します。1000[Hz]でちょうど0[dB]になるように調整しています。

 図2の青色線はA特性のフィルターです。ということは、加速度の周波数分析結果に「加速度→速度 変換ゲイン」とA特性フィルターを掛け算した結果を見れば、ターゲットとすべき周波数成分を決めることができます。「加速度→速度 変換ゲイン」とA特性フィルターを掛け算したゲインを「加速度ピックアップ出力に掛けるゲイン」と名付けて、これを図2のオレンジ色の線で示します。案外フラットな特性になりました。

加速度ピックアップ出力に掛けるゲイン
図2 加速度ピックアップ出力に掛けるゲイン[クリックで拡大]

 図2はデシベル表示なので、通常の倍率にしたものを図3に示します。2000[Hz]以上でかなり小さいことが分かります。加速度ピックアップで測定して2000[Hz]以上の成分が観測されても騒音対策の場面では相手にしなくてよいことになります。理由は、加速度ピックアップは高い周波数成分に対してよく反応するからです。なお、本連載の最後に紹介する予定の騒音対策事例では、4000[Hz]の音の対策を取り上げますが、そのような例外もあります。

加速度ピックアップ出力に掛けるゲイン
図3 加速度ピックアップ出力に掛けるゲイン[クリックで拡大]

 図3の曲線を使うことがあるかもしれませんので式を書いておきます。

式1
式1[クリックで拡大]
式2
式2[クリックで拡大]

 例を使って説明します。図4左図は音源の加速度ピックアップの出力をFFTアナライザで周波数分析したもので、図4右図はこれに「加速度ピックアップ出力に掛けるゲイン」(図3のオレンジ色)を掛けたものです。図4左図を見たら、「よし、音源の3150[Hz]成分の振動から着手しよう」との判断がされますが、前述した内容を踏まえると、騒音対策が目的ならば315[Hz]の振動成分を最初のターゲットにすべきだということが分かります。図4右図の縦軸が振動速度に比例した量になっていることに注目してください。

音源の振動の周波数分析結果
図4 音源の振動の周波数分析結果[クリックで拡大]

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