振動と音に関する基礎量 その2:CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(3)(4/4 ページ)
連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、“解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと”を主眼に、CAEと計測技術を用いた機械の振動対策と騒音対策の考え方や、その手順について詳しく解説する。連載第3回では、騒音計を使う際にいつも設定している「A特性」と「音響インテンシティ」について取り上げる。
音響インテンシティの測定
ノーマル音響インテンシティInは、音響インテンシティの法線ベクトルnの方向成分となります。次式で表されます。ベクトルの内積ですね。図11の関係です。
音響インテンシティはベクトル量なので図12に示すようにX方向成分、Y方向成分、Z方向成分に分解できます。X軸、Y軸、Z軸を向く単位ベクトルを持ってくると、音響インテンシティのXYZ方向成分は式17で表されます。
音響インテンシティ測定は、Ix、Iy、Izを個別に測定することになります。粒子速度を直接測る測定器があるようですが、通常は図13に示すように距離Δr[m]離れた2つのマイク音圧を測定することで音響インテンシティを測定します。測定は2つのマイクの軸をX方向に向けた状態とY方向に向けた状態とZ方向に向けた状態の3回行います。
サラリーマン時代に「振動・騒音対策 中級3日コース」という社内教育を受けた際、「音響インテンシティは位相のそろった2つのマイク出力のクロススペクトルの虚数部です」と聞いたことがあります。実際に、同じ型式の騒音計を2台買ってFFTアナライザでクロススペクトルの虚数部を求めたところ、マイクの位置を反転すると、クロススペクトルの虚数部の符号が反転したことを覚えています。音が右から左に進んでいるときの音響インテンシティがプラス値だとすると、音が左から右に進んでいるときの音響インテンシティはマイナス値になります。高額な音響インテンシティ測定器を購入する必要はなく、FFTアナライザで十分測定できるのです。
音圧p1(t)、p2(t)から音響インテンシティを求める式を書いておきます。相互相関関数という畳み込み積分があって、これのフーリエ変換がクロススペクトルです。p1(t)、p2(t)の相互相関関数C12(τ)は次式で表されます。
p1(t)、p2(t)の相互相関関数のフーリエ変換(クロススペクトルS12(ω))は次式で表されます。
マイクの配列方向のノーマル音響インテンシティInは次式で表されます。Im(**)は虚数部を取り出すという意味です。
Im{S12(ω)}は偶関数なので、角振動数範囲が0〜∞[rad/s]の成分を取り出したものは「片側クロススペクトル」と呼ばれていてG12(ω)と表記してノーマル音響インテンシティInは次式で表されます。
式21は全周波数範囲の値であって、いわゆるオーバーオール値です。普通は周波数ごとに音響インテンシティを評価するので、上式の積分は行いません。周波数ごとの音響インテンシティを評価すると、500[Hz]の音は右から左に伝搬していって、1000[Hz]の音は左から右に伝搬していることなどが分かります。また、コンピュータは積分できず、できることは総和をとることだけなので、実際の測定はフーリエ変換するのではなく離散フーリエ変換をします。
次は、騒音・振動対策の常とう手段である周波数分析について、3回に分けて説明します。 (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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