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振動と音に関する基礎量 その1CAEと計測技術を使った振動・騒音対策(2)(1/4 ページ)

連載「CAEと計測技術を使った振動・騒音対策」では、“解析専任者に連絡する前に、設計者がやるべきこと”を主眼に、CAEと計測技術を用いた機械の振動対策と騒音対策の考え方や、その手順について詳しく解説する。連載第2回では「振動と音に関する基礎量」について取り上げる。

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 騒音対策には遮音や吸音がありますが、音源対策として“音源の振動を小さくする”という手段があります。ということは、音に関して説明をする前に、振動について取り上げた方がよいと思うので、まずは振動から解説することにします。

⇒「連載バックナンバー」はこちら

振動

 音は“空気の縦振動”なのですが、ここでいう振動は固体の振動です。固体の振動には図1に示すように「縦振動」と「横振動」がありますが、本連載では主に横振動を対象とします。ちなみに、スピーカーのコーン紙は横振動をしており、そこから音が放射されます。

縦振動と横振動
図1 縦振動と横振動[クリックで拡大]

 振動は“固体表面の変位”なので、その単位はメートル[m]です。加速度ピックアップを使う機会が多いので、振動の大きさを加速度で表現されることが多いですね。単位はメートル毎秒毎秒[m/s2]です。振動加速度は1Gなどと表現されることもあります。1Gは9.8[m/s2]ですね。たまに[Gal](ガル)という単位も使われます。1[Gal]=0.01[m/s2]です。1[Gal]=0.01[G]でないことに注意が必要です。実はこの原稿を書くまでは0.01[G]だと思っていました……。

変位/速度/加速度

 加速度ピックアップを使う機会が多いので振動値は加速度で議論されますが、低減したいのは振動変位である場合が多いように思います。振動加速度の大小で一喜一憂するのですが、振動周波数によっては変位と加速度の大小関係が逆転することがあるので、振動変位を低減したいのなら振動変位を見なければなりません。後述しますが、音を下げたいときは振動速度を下げる必要があります。

 正弦波で振動する場合を考えましょう。変位/速度/加速度は次式で表されます。

式1
式1
式2
式2
式3
式3

 加速度振幅と変位振幅の関係は次式となります。

式4
式4
式5
式5

 ここで、式5を使った数値例を紹介します。加速度ピックアップで測定し、周波数分析した結果、5[G]、200[Hz]でした。このとき変位振幅はいくらになるでしょうか。

式5を使った数値例
式5を使った数値例

 変位振幅は31[μm]となりました。5[G]というと、かなり大きな加速度なのですが、変位はミクロンオーダーですね。

FFTアナライザを使って振動変位を求めてみる

 機械の振動が問題になっていて、加速度ピックアップで振動を測定したとしましょう。振動加速度波形は図2のようになりました。「この波形のp-p値(peak to peak値、最大値−最小値)は24[m/s2]なので、これを半分にしよう」という目標を立てることは多いと思います。

振動加速度波形
図2 振動加速度波形[クリックで拡大]

 振動測定の常とう手段としてFFTアナライザで周波数分析すると、図3左図のようになります。「おおっ、150[Hz]の成分が大きいぞ。150[Hz]成分にターゲットを絞って対策しよう。150[Hz]に効く制振材はないだろうか」となります。

振動の周波数分析結果
図3 振動の周波数分析結果[クリックで拡大]

 では、式5を使って振動変位を求めると、図2右図のようになります。周波数成分のピークが150[Hz]と30[Hz]で逆転しました。機械の振動の場合、振動加速度、つまり慣性力が機械に悪影響を及ぼしていることは少なく、どこかが変位して加工精度が低下したりしています。対策すべきは振動変位で、対策の対象は30[Hz]成分となります。いずれ制振材について説明しますが、150[Hz]の振動に効く制振材は30[Hz]の振動には無力です。というわけで、150[Hz]と的外れのターゲットを設定したために、なかなか対策が進まない事態になります。加速度ピックアップに頼った測定は簡便でいいのですが注意が必要です。

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