組み込み機器の進化の鍵は「クラウドネイティブ」にあり:MONOist 2023年展望(3/3 ページ)
組み込み機器のエンジニアからは“対岸の火事”に見えていた「クラウドネイティブ」だが、自動車や産業機器の分野で積極的な取り込みが図られるなどその影響は無視できなくなっている。
産業機器もクラウドネイティブを取り込み、ROSとの親和性も高い
自動車分野に続いてクラウドネイティブに向けた取り組みが進みつつあるのが、FAをはじめとする産業機器だ。もともとイーサネットをベースとするフィールドネットワークの導入が早期から進んでいたことや、近年はより高速のTSN(Time Sensitive Networking)への移行が検討されるなどクラウドネイティブとの相性は悪くない。
産業制御機器大手のオムロンは、2022年11月開催の「EdgeTech+ 2022」においてコンテナ技術を活用したエッジ/クラウド連携により産業用PCのアプリケーションの柔軟な実装やアップデートを可能にする「仮想化制御プラットフォーム」の展示を行っている。コンテナを使ってアプリケーションを自在に入れ替えることで、段取り替えなどによって変更が求められる生産ラインに最適な機能を自在に組み込めるというコンセプトであり、多品種少量生産が中心の国内製造業にとって有意義なソリューションになり得るといえるだろう。
また、自動車や産業機器との関係も深いロボット開発フレームワークの「ROS」も組み込みLinuxが制御に用いられておりクラウドネイティブとの親和性が高い。例えば、高度な認識機能などを備えるAGV(無人搬送車)/AMR(自律走行ロボット)のAIアルゴリズムは、コンテナの仕組みによって機能向上を随時図ることができる。
このような組み込みLinuxを搭載する高性能組み込み機器とクラウドネイティブの接近は、エンタープライズ向けLinux大手のレッドハット(Red Hat)の市場参入も呼び起こしている。同社のKubernetesコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift」は、クラウドネイティブにおいて重要な役割を果たしているが、軽量版となる「MicroShift」と軽量のLinux OSを組み合わせた「Red Hat Device Edge」により、高性能組み込み機器におけるコンテナの活用を支援していきたい考えだ。
米国におけるSBOM開示の影響も無視できない
高性能組み込み機器においてクラウドネイティブが当たり前になったとしても、マイコンやRTOS(リアルタイムOS)で構成される、リアルタイム性が重視されるような組み込み機器のソフトウェア開発がいきなりクラウドネイティブになることはないだろう。ただし、クラウドは当然として、クラウドと直接つながるエッジコンピューティング機器もクラウドネイティブとなれば、エッジコンピューティング機器によって制御されるエンドポイントに当たる組み込み機器の開発にもそれらの影響が出てくる。
例えば、RTOSであれば、大手クラウドベンダーであるAWS傘下の「Amazon FreeRTOS」やマイクロソフト(Microsoft)傘下の「Azure RTOS」が存在感を強めているが、これはクラウドとの連携のしやすさが背景にある。
また、大統領令により米国でSBOM(ソフトウェア部品表)の開示が求められるようになったことも無視できない。このSBOMの開示では、システムを構成する組み込み機器のソフトウェアも含まれる可能性が高く、トレーサビリティーを確保するためにクラウドネイティブを構成する要素の一つであるCI/CDの導入が必須になるかもしれないのだ。
そういった観点からも、組み込み開発のエンジニアは受け身でクラウドネイティブに対応するのではなく、積極的に取り込む姿勢が必要なのではないか。そして、そのことが組み込み機器の進化にもつながっていくだろう。
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